日本列島改造論のまま

SBIの北尾氏が半導体投資 国の後ろ盾が「産業の米」を「産業の金」に 

 SBIホールディングスが台湾の半導体大手PSMCと宮城県大衡村に半導体工場を建設します。総工費は8000億円程度。2026年に稼働する計画です。S B Iは会長兼社長を務める北尾吉孝氏が創業したネット金融大手で、最近は地方銀行を傘下へ収め、新たな金融グループを形成し始めています。投資のプロである北尾氏がなぜ専門外の半導体へ手を広げるのか。誰もが抱く素朴な疑問です。

なぜ専門外の半導体へ

 まず浮かんだのは日本政府が半導体産業の復興を目的に巨額の助成金制度を掲げていることです。中国が進める半導体産業の育成に対抗するため、日米は経済安全保障の観点から半導体開発の主導権の死守を掲げ、政府と企業が連携して最先端の半導体開発と工場の建設を急いでいます。とりわけ、日本は1980年代に世界シェアの過半を握った勢いはとうに失せ、台湾、韓国の後ろ姿を目で追う地位にまで低下しています。

 岸田政権は半導体復権を果たすため、台湾のTSMCを九州に誘致する一方、日の丸半導体プロジェクトともいえる「ラピダス」を立ち上げました。ラピダスは、トヨタ自動車やソニーなど主要企業8社が出資しており、文字通り日本の産業力を投入する座組みとなっています。政府はTSMCやラピダスに数千億円単位の助成金を支給することを決めており、TSMCは日本政府の後押しを受けて第2、第3の工場建設も検討しています。

政府の巨額助成金、拡大する需要見通し

 半導体需要は電気自動車(EV)や人工知能の広がりで今後も大きな伸びが予想されます。研究開発や工場建設に投資しても、政府の1000億円単位の助成金が支えとなって投資リスクは抑えられます。投資先の需要拡大が見込め、投資リスクも小さい。北尾氏の目には「産業の米」と言われた半導体が新たな富を生み出す「産業の金」として映っているに違いないでしょう。

 SDIが組む台湾PSMCは世界第6位の半導体受託生産メーカーです。世界の受託生産の先駆けであるTSMCに比べ後発ですが、実力は評価されており、SDIはPSMCと合弁会社を設立し、二人三脚で半導体計画を実行します。生産する半導体はラピダスが目指す最先端レベルとは違い、回路幅が28ナノ(ナノは10億分の1)レベルですが、半導体需要の過半を占めているだけに、自動車や産業機器向けとして手堅い需要が見込めるとしています。当然、政府からの巨額の助成金の交付も織り込み済みです。

 見逃せないのは、TSMCの場合と違ってSDIが半導体の資金需要により近い立場で関わることです。北尾氏は「グローバルな形で安定的で長期的な資金調達を支援する」との考えを明らかにしています。工場建設は宮城県ですが、建設や生産の関連産業は東北全体の地域経済に及びます。SBIグループから見れば、SBI新生銀行のみならず傘下に収めている地銀を活用して建設、工場稼働後の資金需要に応えれば、経営再建が急務な地銀にとっても大きな支援策となります。

傘下の新生銀、地銀にも恩恵

 北尾氏は経済誌のインタビューで2012年に経営破綻した日本の半導体メーカー、エルピーダ・メモリーについて「高い技術を持っていても、資金不足が破綻の原因」という趣旨を述べており、巨額投資の継続が必須の半導体産業が金融機関と連携する価値は十分にあると強調しています。

 実際、エルピーダは最先端の生産技術でサムソン電子に先行していましたが、生産投資の継続で力負けしました。金融のプロである北尾氏がPSMCとの合弁事業で巧みに資金調達を成し遂げれば、勝ち残る可能性は十分に高いでしょう。

 投資先を見極める才能は抜群の北尾氏です。半導体生産のことはよくわからなくても、その将来性とリターンについては直感的に把握したはずです。なにしろ半導体の需要は手堅く、工場建設には政府から巨額の補助が期待できる。不慣れな半導体についてはPSMCに任せれば、工場運営などで支障をきたすことはない。投資リスクはかなり精緻に試算できます。

かなりおいしい?

 しかも、政府の政策に貢献できることも見逃せません。半導体復権を脇で支え、疲弊する地方経済の建て直しにも寄与できる。疲弊している地方経済で破綻寸前の地銀救済に繋がり、グループとしても新たに傘下へ収める地銀の救済策として活用できる。その実力を兼ね備えているのはSBIであるとアピールできます。半導体産業を金融商品に例えるのは不謹慎と思いますが、かなり「おいしい」かもしれません。

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