米不足が問う「トヨタと農業、国民はどちらを選ぶ?」GDPの10%は0・8%より重いか
近くのスーパーの店頭に行ったら、米が売っていません。お米の棚はがらん、ガラン。違うスーパーを訪ねたら、お米はありました。「あ、米がある」と思ったら「1家族1点まで」の表札。1人1点じゃないところに品不足の厳しさがわかります。価格も上がっています。「米が無くてもパンが有るさ」とうそぶいても、夕飯時になればお米が恋しい。
トヨタ会長の「日本脱出」と天秤にかけてみたら
目の前にあるのが当然と思っていたものが突然、消えてしまう。そんな怖さを想像していたら、「トヨタが日本から脱出したら・・」と述べたトヨタ自動車の豊田章男会長の言葉が浮かんできました。お米もトヨタも日本から無くなったら困ります。でも、ガランとした米の棚を眺めていたら、遊び心が疼きました。「どっちが大事?」。天秤にかけたくなりました。
米不足には多くの要因が重なっています。去年の猛暑などの影響で生産・供給そのものが少ない中、海外からの観光客がお寿司などを選ぶインバウンド型の和食ブームが加わり、堅調な消費が続いています。在庫はどんどん減り、6月末で156万トン。前年同期に比べて41万トン、20%も減っています。記録を取り始めた1999年以降で最も少ない水準です。農林水産省は今秋から新米が出回れば需給は回復し、品不足や価格は元の水準に戻っていくと説明していますが、果たしてそうでしょうか?
米不足は構造的
米不足は目先だけでの問題でしょうか。根底には長年続く減反によって生産余力が失われ、高齢化と後継者不足によって農業従事者も減っています。2020年は136万3000人。5年前の2015年の175万7000人と比べて22%減少しました。もっと遡って比較すると、15年前の2005年は224万1000人。39%減少です。
農産物を耕作する面積も減り続けています。作物を生産する面積が減れば供給余力は低下します。農水省によると、2023年7月時点で田畑を合わせた耕地面積は429万7000ha。前年に比べ2万8000ha、0・6%減少しました。内訳は稲を植える田が233万5000haで0・7%減。畑は196万2000haで0・6%減。
農作物の単価は天候に左右され、暴落や高騰が頻繁にありますが、単価は安く利益率も低い。日本経済全体で見ると、農業のGDPは日本全体の0・8%。産業別の就業人口でみると、農水産業あわせた一次産業で全体の3%を占めますが、1人当たりの生産性の低さからGDPでは水産、林業を足してようやく1%です。
トヨタは日本の基幹産業
これに対し、トヨタは売上高が45兆円。日本のGDPは600兆円近くですから、トヨタ単体だけで日本の7・5%も占めます。系列大手には日野、ダイハツ、デンソー、アイシン、豊田自動織機など優良企業が名を連ねていますから、グループ合計で見れば日本のGDPの10%を占めるでしょう。トヨタの就業者数は海外を合わせて連結対象でみれば38万人。農業従事者の3割以下で、GDP比で10倍以上の経済力を産出しています。
日本経済の寄与度を数字上で比較すれば、どうみてもトヨタの存在感が上回ります。農業の10倍以上ですからね。でも、トヨタ、あるいは農業どちらかが日本経済から消える「あり得ない事態」を想定した場合はどうでしょうか?。それは「トヨタが農業より必須条件」といえるのでしょうか。「ありえへん疑問」ですが、日本にとってどっちが大事かを考えると、農業の重要性がわかる気がします。
当然ながら、トヨタが抜けた穴は日本経済に大打撃を与え、かつてない大不況を招きます。第二次世界大戦後の混乱を思い出してください。日本の工場が失われ、日本の製造業はまさにゼロから立ち上がりました。戦争を想定しいるわけではありませんが、そのぐらいのインパクトが日本中を駆け巡ります。
戦後、日本経済が荒廃し、仕切り直しする時期も、日本国民は食べて生き続けてきました。海外から多くの帰国者が戻り、食糧危機がさらに深刻化。それでも日本が再生するまでの期間、飢えをしのぎ、次代を築く日々の生活を支えてきたのが食です。つまり、農業が残っていたからです。
「トヨタ破れても山河あり」
「国破れて山河あり」。趣旨が違うと指摘を受けると思いますが、「トヨタが破れても山河あり」といえるのではないでしょうか。「どちらが大事か」という比較は愚問だと承知していますが、トヨタの経営陣が思うほど日本にとって不可欠なものではないのです。
経済寄与度はわずかです。しかし、日本の未来を築く力に農業は必要です。わずか0・8%のGDPしかありません。それでもトヨタの10%を上回る重要な産業であることを忘れるわけにはいきません。