米国、アジア太平洋の新経済圏 APECとTPPは? 日本に独自戦略はあるのか
オーストラリアの仕掛けがここでも
そこにクアッドです。アジア太平洋地域での中国の抑止力を考える連携を進めてきただけに、米国としても今回の首脳会議は最も重要なカードであるインドを自由貿易構想に確実に取り込むチャンスに映ります。
インドをいかに取り込むのか。オーストラリアがもう30年も前から着手していました。オーストラリアは軍事的な圧力はありませんが、アジア太平洋で島嶼国の盟主を自任していますし、旧宗主国の英国と深い関係を維持しています。米国は日本と同盟関係を結んでいますが、その日本とは資源貿易を介して経済、政治ともに連携します。APECがその第一弾とみてよいのでしょう。
それはともかく、ここで改めて浮き彫りになるのは、日本の独自戦略は何か。APEC、TPP、RCEPいずれも主要メンバーであるものの、果たして主導的な役割を演じてきたのか。例えばTPP。トランプ大統領の離脱表明で空いた穴を埋めるかのように日本が主導する形で進めたかにみえますが、背後にオーストラリアなどのコアメンバーが振り付けていたはずです。
そもそも2010年ごろ、当時の菅直人首相のドタバタ劇を思い出してください。なんの脈絡もなく国会の所信表明で「TPPの参加」を明らかにし、その後政府内で参加するしないですったもんだしました。舞台裏でオーストラリア、米国が仕掛けた誘いが見えるようです。その仕掛け人の米国が離脱してしまい、当時の日本政府の本音は二階に上がって梯子を外された思いでしょう。
自由貿易の経済圏構想はなんのためにあるのか。モノの自由な流通を通じて自国経済を成長させ、より良い生活を作り上げるのが目的です。アダム・スミスが250年前に「国富論」で唱えた資本主義の思想が脈々と生き続けています。スミスは軍事力によって経済圏を拡大、略奪する重商主義を批判し、より優れた経済合理性を実現できる考えを示しました。見逃せないのは、国民の富だけでなく利益を追求する道徳観の重要性を説き、経済より重きを置いている点です。
日本は憲法によって軍事力に箍(たが)をはめ、平和を追求することを是としている国です。経済力は中国に追い抜かれたとはいえ、まだ世界第3位の規模です。同じ思いを共有できるはずの欧州などと連携しながら、地球全体の継続性に努力する力を持ってます。日本政府は、中国の先進技術、軍事技術の台頭に対抗するため、半導体など先端産業育成を主軸にした経済安保を掲げています。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーの安定確保も一段と重要になっています。
地球全体からアジア太平洋、インド洋を眺めましょう
一度、地球全体を眺める視野を思い出してアジア太平洋、インド洋を俯瞰しましょう。乱立する自由貿易の経済圏に必ず名を連ねているのが日本です。そして貿易を通じて信頼関係を構築したオーストラリア、ニュージーランドもいます。いずれも中国と経済的なつながり深く、断ち切るわけにはいきません。バイデン大統領に倣って、日本独自の新しい経済圏構想をぶち上げる勇気ぐらいは持ちたい。