MLBを初めて体感(下)タオルを振って歌って勝利を喜ぶ 抽選でクルマも当たるかも

 苦労して手に入れたチケットは予想以上に良い観客席で、驚きました。一塁側の内野席で、ピッチャーが投げるボールの球筋を横から眺めることができます。160キロ近い球速や変化球の違いを実感できました。

声援でビールを飲む余裕がない

 一つの勝敗がポストシーズンに進出できるかどうかが決まる試合です。マリナーズ、レンジャーズ、どちらも負けられません。初回から選手の張り詰めた緊張感は伝わってきましたが、観客席はパーティーが始まった感じです。一球ごとに一喜一憂しながら、ホームグランドのマリナーズの演出に従って声援を送ります。せっかく買ったビールを飲んでいる暇などありません。「NOISE」で声援を送り、チャンスを迎えれば立ち上がってタオルを振り、応援モードのギアをさらに引き上げます。

 この場面、立ち上がって応援するほどではないのでは?と思っても、家族連れの前席が全員立ち上がるとグラウンドは全く見えません。当然、一緒に立ち上がって応援するしかありません。米国の野球観戦はこんな感じかなと納得していたら、隣に座る米国人の男性は、あまりにも前席の家族連れが立ち続けているので、低い声で「座れよ」と唸っていました。やはり黙って野球に集中したいファンもいるんだとわかり、心の中でクスッと笑ってしまいました。

 

イチローの野球が生きている

「座れよ」と唸るファンも

 試合展開はマリナーズの打撃陣が爆発。早い回からホームランなどで点数を重ね、大好きな選手のひとり、クロフォードが満塁ホームラン「グランドスラム」を放ちました。米国の球場は太鼓などの鳴物の響きがないので、ボールの打撃音がよく聞こえます。満塁を迎え、打席に立った左バッターのクロフォードが「コツン」という軽い打撃音を響かせたと思ったら、ライナー系の弾道を描いて目の前を通り右翼席に飛び込みました。「ウォ〜〜」と凄まじい歓声が球場内を駆け巡りました。この打撃シーンを見ただけで、「チケット代の元は取った」と拍手した自分が今は恥ずかしい。

 レンジャーズはマリナーズのピッチャー好投で散発のヒットだけ。連打が続きません。試合は予想外にもマリナーズの一方的な展開になりそうな気配でした。パーティーモードも静まるのかなと心配しましたが、杞憂でした。エンターテイメントの本場、米国です。観客を飽きさせません。電光掲示板には「今週はファン感謝週間」と告知され、当選番号が次々と明記されます。プレゼントは人気商品やアラスカ旅行の航空券などが紹介され、「へえ、結構お金がかけているなあ」と感心していました。

大型SUVが次々と抽選でプレゼント

 ところが、そんなもんじゃなかったのです。当選商品に大型SUVが登場したのです。トヨタ自動車やフォードの高額な大型車を無料でプレゼント。すごい!1台の価格は6万ドル近いはずです。ドル高円安が続く日本円に換算すれば900万円ぐらいになります。当選者の席にはカメラが待ち構えており、大きなカギを模したパネルを持って大喜びする顔をライブで大パネルに映し出します。それが何回も続きます。もちろん、観客の多くはおめでとうと拍手を送りながらも、次は自分にと期待します。

 自動車メーカーの広告宣伝費で処理するとはいえ、フォードやトヨタだけで5、6台は当選者にプレゼントされています。いくらファン感謝週間だからって、一晩で6000万〜7000万円がプレゼントされる計算です。クルマ以外の航空券などを含めれば、日本円で総額1億円相当が当選者に配られているのでしょうか。可能性ゼロと思っていましたが万が一、SUVが当たったらどうやって日本へ持ち帰ろうかと考えた瞬間もありました。大谷翔平を例にするまでもなく日米の野球選手の年俸はヒト桁違います。MBLのマネー感覚の凄さに言葉を失いました。

マリナーズは圧勝

 試合は中盤でほぼマリナーズの勝利が見えてきました。そのせいか、観客のパーティーモードはさらに高まります。前席の家族連れはお隣とおしゃべりに夢中になって観戦は完全にどこかへ置き忘れています。振り返って「どこから来たの?」と話しかけ、「おしゃべり、うるさい?」と尋ねるほどです。子どもたちは席を離れて、どこかへ行ってしまい、パパはビールの注文に一生懸命。

「野球に連れてって」を合唱

 それでも、7回裏を迎えると、みんな席に戻って準備します。MLBの有名な歌「私を野球に連れてって」を合唱するのです。いつもテレビで見ている風景なので、一度は体験してみたかった場面です。歌詞はよくは覚えていませんでしたが、「take me out to the ball park」のフレーズだけは一緒に歌い、「これぞ、MLB」と感動しまくりました。マリナーズは投手の中継ぎもうまく進み、レンジャーズを圧倒しました。

 初めてのMLB観戦でホームチームが勝利。しかも、クロフォードが満塁ホームラン。彼は細身ながら力強いバッテイングと隙のない守備を披露します。攻守を通じて野球を知っている素晴らしい選手です。野球を極めようと努力したイチローの野球がマリナーズに根付いている証です。

 大満足、大満足。週末だったので、球場では打ち上げ花火は始まりました。球場の外へ出て、夜空を見上げたら、中秋の名月が輝いていました。

シアトルの中秋の名月

 

関連記事一覧