東京の都市開発の癖を考える③住友不動産 攻めて攻め続ける 大手三つ巴のバトルロイヤル
三菱地所、三井不動産と続けば、次は住友不動産。経営規模などを念頭に置いた順番というより、東京の都市再開発の乱戦を加速させる立役者だからです。プロレスに例えれば、三菱、三井という人気レスラーが高い技術を駆使して正統派の闘いを演じているリング上に乱入してきたヒール役といえるでしょうか。住友グループのみなさんに怒られますね。
イベント会場、マンションで躍り出る
今や、住友不動産の社名は都内のあちこちで目にします。例えば「ベルサール 」。新宿、渋谷、飯田橋、神保町、半蔵門、九段、秋葉原、神田、日本橋、六本木、渋谷、汐留、御成門。東京都内のJRや地下鉄のターミナル駅を降りると、住友不動産の「ベルサール 」の案内板が待ち受けています。大ホールや貸し会議室などの「空間」を販売するビジネスを展開しているので、イベントなどで訪れたり実際に会場として利用した経験を持つ方は多いはずです。
マンションはもう至るところ。ただいま”爆販中”という表現しか思いつきません。販売戸数ランキングをみると、2014年から19年までの6年間は連続トップ。一気に上位グループの地位を固めました。直近の2022年も4位。上位の3社は野村不動産、オープンハウスのプレサンス、三井不動産。住友不動産は富裕層の取り込みに躍起ですから、狙うライバルは目の前の三井不動産。販売戸数は住友が3109戸に対し、3位の三井が3420戸。その差は311戸。
「住不(スミフ)」は俊速
失礼ながら、住友不動産の物件はかつて「三菱地所や三井不動産に比べてランクはひとつ下」といわれていました。高級マンションで知られる三菱地所を販売戸数で追い抜き、三井不動産とほぼ肩を並べるところまでたどり着きます。都内でマンション適地があれば、「住不(スミフ)」の触手がすぐに延びて、高級マンションの映像が描かれた看板が立つ。現在の勢いはこんなイメージです。
プロレスの華ともいえるバトルロイヤルを見た気分に浸れるのは、ただいま乱戦中の東京・都市再開発。不動産の都市開発は丸の内は三菱地所、日本橋は三井不動産、六本木は森ビル、新宿は住友不動産という具合にそれぞれの”縄張り”が暗黙の了解としてありました。
”仁義なき再開発”が始まった
しかし、いまは”仁義なき都市再開発”の真っ最中。住友不動産は2015年、日本橋交差点のすぐ横に「東京日本橋タワー」を竣工させました。地下鉄日本橋駅と直結し、大イベントホール「ベルサール 」などが入居しています。周辺も高島屋、「コレド」などの都市再開発が進んでいましたが、計画・工事はもちろん日本橋といえば三井不動産、同社が主導しています。住友不動産は三井の本丸にくさびを打ち込んだ格好です。
その三井不動産が三菱地所の”領地”に手を入れます。六本木の防衛庁跡地で創り上げた事業モデル「ミッドタウン」を日比谷、東京駅前の八重洲に相次いで建設。住友不動産、三井不動産に”縄張り”周辺を攻め続けられる三菱地所も、黙って眺めているわけにはいきません。
三菱地所の意地が日本一高いビル建設を決断
東京駅と日本橋の中間点ともいえる常盤橋地区で日本でトップクラスの高層ビルを建設中です。完成すれば三井のコレド、住友のベルサール を見下ろす形です。すでに併設する「常盤橋タワー」が完成していますが、23年10月から63階建ての「トーチタワー」が着工。27年が完成目標です。
この再開発には常に紳士然とする三菱地所が胸に秘めた意地が込められています。トーチタワーの高さは大阪市の「あべのハルカス」、森ビルが虎計画する東京・虎ノ門地区の高層ビルを追い抜く330メートルに設定。ビル名が示す通り、東京を照らす象徴をめざしています。
赤字は覚悟
三井、住友などの再開発計画を並べただけで、推察できるはずです。東京駅周辺にオフィス、商業施設、ホテルがあふれかえるほど増えます。
三菱地所の某部長が明かしてくれました。トーチタワーを含めた常盤橋再開発の検討段階で東京都内のオフィス需給やホテルの供給過剰などを考慮すれば、「事業収支は危うい」との意見が強かったそうです。しかし、「たとえ赤字が見込まれても、東京駅周辺の地域は三菱地所が仕切っているのだ」という意思を明確に示すために建設が決定したそうです。だからこそ高さは日本一、ビル名もトーチ、東京を照らすのは三菱地所。
”老害”の負の遺産を捨て、攻め続けるしか
住友不動産による攻めの経営はまさに東京都内で三つ巴の乱戦を呼び込んだ格好です。「もともと住不(スミフ)は攻めだろう」と考えている人もいるはずです。住友不動産には安藤太郎という有名な経営者がいました。住友銀行副頭取から不動産の社長へ転じ、三菱、三井に比べ手持ちの物件が少ないハンディを跳ね返すため、用地買収を積極的に進めます。その荒っぽい手法から「ケンカ太郎」の異名が付けられたほど。
皮肉にも住友不動産の攻めの経営は、その安藤時代に残された負の遺産の結果です。”老害”とも呼ばれた経営判断の遅れを捨て去り、遠くにみえる三菱、三井の背中を追うため、物凄いスピードで攻めるしかありませんでした。その執念が今の原動力となっています。
三つ巴の再開発は東京の未来に貢献しているのか
三菱、三井、住友が三つ巴となって繰り広げる東京の都市再開発。果たして東京、日本の未来に貢献するのでしょうか。その疑問は今も消えません。