イオン、ツルハを飲みドラッグストア制覇 次はM&Aを捨てコンビニ・ECとの競争へ
イオンがついにドラッグストアの制覇に王手をかけました。1月29日、香港投資ファンドのオアシス・マネジメントとツルハホールディングの株式取得に向けて交渉すると発表しました。イオンはすでにツルハの13%強を握っており、オアシスが握る13%を合わせれば26%を超え、ツルハを持ち分法適用会社として飲み込むことができます。ドラッグストアのトップはイオン傘下のウエルシア。業界第2位のツルハと合わせれば、売上高2兆円、シェア25%を超えます。念願のドラッグストア制覇の道が見えてきました。
ウエルシアとツルハでシェア25%
イオンは「株式取得の数、価額、方法、時期その他の条件については、オアシスと協議の上検討している段階」と説明しています。ご破算になることはないでしょう。ツルハは沈黙を守っています。2日後の1月31日に2024年1月の月次を発表していますが、イオンとオアシスの株式譲渡交渉についてはコメントはありません。ツルハから見れば大株主同士の交渉ですから口を挟む立場にはないとの判断かもしれませんが、創業家の保有比率は鶴羽家や過去に買収したドラッグストアの創業家などを加えても10%未満といわれているだけに、株主総会で議論されてもイオン主導の流れを変えることはできないでしょう。
ツルハには一時期、上場廃止の憶測が流れていました。しかし、外野席から眺めていると、イオンとオアシスにそれぞれ13%の株式を握られた時点でツルハの運命は定まっていた印象です。オアシスはファンドとして株価を引き上げることに関心があっても、ドラッグストアを経営する考えなど毛頭ないことはわかっていました。2023年8月、オアシスがツルハの経営体制に不備があると指摘して社外取締役選任などを株主提案していますが、あくまでも揺さぶりをかけるのが狙い。
ツルハ自身、M&Aの繰り返しで業界2位の座まで膨張したドラッグストアチェーンです。鶴羽家はじめ複数の創業家が混在しており、オアシス、イオンに対し一丸となって独自経営を堅守できるかどうかは疑問でした。個人商店の色彩がまだ残っており、過去には薬局として許されないコンプライアンス違反を起こすなど経営改革は道半ばのまま。中期計画でさらなる収益の成長を打ち出したものの、実力と中身はかけ離れていました。
オアシスの株主提案時でツルハの運命は
M&Aの先輩格であるイオンから見れば、ツルハの足元は覚束なく、オアシスの揺さぶりを冷静に注視しながら、王手をかける時期を探っていました。オアシスの株主提案に反対した時も「大手ドラッグストア同士の再編の重要性を認識している」との考えを表明しており、すでにオアシスとの交渉が念頭に置かれていたと察します。
イオンの経営戦略はM&Aが主軸です。創業家出身でグループの精神的支柱とされる小嶋千鶴子さんは「規模の拡大こそが企業の存続を可能にする」が持論でした。イオンの事実上の創業者の岡田卓也名誉会長、その長男の岡田元也会長は経営哲学に従ってライバル企業を飲み込み、日本最大の小売業グループへの道筋を築きました。イオンから見れば、オアシスのツルハ株はいずれイオンの手元へ渡ってくると確信していたのではないでしょうか。
ドラッグストア制覇の後はコンビニ、ECと進化競争
岡田元也会長はツルハの株式取得に関して「消費者に必要なビジネスであり続けるためには一定の規模が必要だ」と話し、ドラッグストアの再編に意欲を示しています。一方で、「旧来のビジネスモデルは通用しなくなる」と語り、コンビニや電子商取引(EC)との新たな競争を覚悟していると強調しました。ウエルシアとツルハが統合され、ドラッグストアを制覇しても、それは一区切りに過ぎません。
ドラッグストアの成長力は失われ、その業態の賞味期限切れが指摘されています。ドラッグストアの再編は、イオンが強さの源泉として頼ってきたM&A戦略の「終わりの始まり」も告げているのです。巨大化した小売りグループがコンビニとECとの進化で競う時代が始まるのです。