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イズミが西友・九州を買収 中四国・九州をドミナント イズミヤ、ヤオハンを超えて

 素直にうれしい。久しぶりにニュースの舞台に登場しました。イズミです。流通業界の未来を考えるうえで欠かすことができません。賞味期限切れを過ぎた小売業界を考える時、どうしてもイオン、セブン&アイなど首都圏に本社を構えるスーパー・コンビニチェーンがいつも頭に浮かんでしまいますが、西日本の消費者をがっちりと掴んで離さないイズミを見逃すわけにはいきません。

西日本の消費者をがっちり掴む

 そのイズミが、西友が九州で展開する店舗すべてを買収しました。西友は福岡などで食品スーパー「サニー」69店舗を展開しており、すべての店舗を「サニー」の名を残したまま8月にイズミ子会社「ゆめマート熊本」に組み込みます。

 イズミは中国・四国を軸に九州に向けて経営資源を集中投下するドミナント戦略を加速中。西友の「サニー」は福岡県内で多数展開しており、資材高騰などで好立地での確保が難しい現状を考慮すれば一気にスケールメリットを手にできると判断しました。

 実は西友もイズミ同様、ドミナント戦略に舵を切っています。九州の売却の直前に北海道の9店舗をイオン子会社に売却しています。北海道、九州からの撤退で本州に集中して生き残りを目指すそうですが、チェーン店舗網の縮小で経営効率を高める縮小均衡で、拡大路線を走るイズミとは真逆の動きです。西友の店舗運営、商品開発、要事業を支える人材不足を考えれば、北海道、九州を手放さざるを得なかったのが実情だったのではないでしょうか。

創業者は広島の闇市からの叩き上げ

 イズミは創業の地、広島市から中四国、九州をテリトリーに広げ、「ゆめタウン」「ゆめマート」などの店舗名で知られています。「ゆめタウン」は巨大ショッピングモールで、同様な店舗運営するイオンと似たコンセプトですが、不動産収益に依存してきたイオンと違い、小売りでしっかり稼いでいるイメージです。

 創業者の山西義政氏は多くの逸話を持つ豪腕の経営者です。戦後間もない1946年、潜水艦乗員から帰郷し、広島駅前の闇市から屋台を引き、衣類の「山西商店」を創業します。ダイエーやイズミヤなど関西出身のスーパーの成功に刺激を受けて、スーパーへ事業を拡大。広島市は映画「仁義なき戦い」の舞台にもなりましたが、軍都の名残りもあって力勝負を競う時代でした。

 山西義政社長当時の評判は、食品問屋など納入業者からかなり手厳しい言葉が使われて今でも残っています。積極的な店舗展開に欠かせない商品を調達するため、納入業者の取引価格を抑え込んで収益を確保し、拡大戦略を維持したのでしょう。

2代目はスタンフォード大の化学者

 現在の社長は山西泰明社長。1970年代から1990年代まで世界に店舗網を広げたヤオハンの創業家の5人兄弟の末弟です。慶應義塾大学を経てスタンフォード大学に化学を専攻します。和田兄弟で最も優秀だったので、米国トップクラスのスタンフォード大への留学を許したと聞きました。凄いです。最近、高校野球の佐々木麟太郎君が入学しましたが、簡単に留学できる大学ではありません。本人は小売業に身を投じる考えはなかったようですが、父親から説得されて小売業の世界に戻り、イズミ創業者の山西氏に評価されて娘婿となりました。

 創業者の山西義政氏とは対照的です。山西泰明氏は経歴からわかるように叩き上げの義父の迫力を纏っていません。取引先が見る目ももちろん、厳しい。手ぬるい経営者だと明言する人もいました。1993年に社長に就任しましたが、周囲は会長の泰明氏が結局すべてを決定するのがわかっています。

 社長就任から10年も満たない頃、山西泰明社長と取材でよくお会いしました。元々は科学者を志向した方です。小売業の創業者が発散するオーラはなく、小売業を頭で理解しており、難関があっても強行突破するタイプではありません。当時、中四国の地盤を固め、九州へ店舗網を広げ始めていました。といっても、とにかく突っ走る無謀さは見当たりません。しかし、実力を物語る経営指標は抜きんでていました。イズミの足腰をしっかり鍛える経営手腕は高く評価されていました。 

「東京へ行くと、イズミヤと間違えられることがあるけど、心外だよね」と苦笑する余裕をみせますが、実家のヤオハンについてはほとんど語らず、センチな思いは微塵も見せません。ヤオハンは静岡県を発祥に日本国内、シンガポール、中国などアジアを中心に世界15カ国に広がる流通企業でした。バブルの象徴と呼ばれた通り、バブル崩壊後は経営が蛇行、1997年に経営破綻。現在は名前を変えてイオン傘下の子会社となっています。ヤオハンのことは一言も話しませんが、胸中にはヤオハンの教訓がいつもあったはずです。

地域チェーンがイオンに勝つためには

 イズミによる西友・九州の買収は、M&Aが繰り返される小売業の将来像を示している気がします。イオンやセブン&アイなど全国チェーンは資金力、人材が豊富な経営資源を武器に、海外展開を加速する一方、国内のライバルや他の業態を飲み込み、支配力を固めています。これに対し、イズミはイオンの軍門に下るライバルを横目に地域の密着度を一段と高め、地域の支配力を高めます。全国チェーンなら不採算と思われがちな店舗網を再生し、力に変えるノウハウは持っています。力と知恵の戦いと例えられるかもしれません。

 なにやら、かつて織田信長、豊臣秀吉の戦国史の様相に似ていますが、小売業の戦国史の結論は歴史が示す通りとはいきません。主導権は武士ではなく消費者が握っているからです。イオンだから支持するわけではありません。イトーヨーカドーが全国で閉店し、大都市圏でなんとか生き残ろうとしている姿を思い出してください。全国チェーンだから強いわけではありません。

消費者の動向を直視する力

 イズミの強さは、地域の消費者に支持されていることです。西友が北海道、九州を手放すのはわかります。消費者は安くても品質やサービスが低下すれば離れるからです。理由はとてもわかりやすい。小売業が生き残るかどうかを決めるのは、とても当たり前のことです。店舗を訪れ、商品を購入する消費者の姿をしっかりと直視して自らも進化し、ともに「今日は良い日だった」と思えることです。イズミは2030年に中四国・九州を軸に300店舗、営業収益1兆円をめざしています。6年後が楽しみです。

◆写真はイズミのホームページから引用しました。

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