岩手の郷土食「かっけ」「もったいない」が食の奥深さを教える

 大谷洋樹の岩手の風

そばのかけらも大事に

 昨秋収穫した蕎麦を挽いて粉にしました。さてどうやって食べようか。そば打ちはハードルが高い。思いついたのが岩手の郷土食の「かっけ」です。かっけとはかけら(端)のこと。そばを打って失敗したり残ったりした余り物が名前の由来。余り物を再加工しゆでた料理です。にんにく味噌で食べればおいしく体が温まります。稲作に適さずヒエやソバなどの雑穀が主食だった地域で、穀物を大事にした「もったいない」の食文化が今も息づいています。

 おつきあいのある農家さんから自家製の味噌をいただきました。自身で栽培する在来の大豆と県内の麹屋さんの麹で仕込んだそうです。かっけをつくる決め手になったのは、「にんにく味噌でかっけを食べるとうまい」との農家さんの一言。「わさび醤油ではどうですか?」と聞くと「いや、やっぱりにんにく味噌だね」と農家さん。刻んだにんにくを味噌に入れて練ったにんにく味噌は知っていました。寒い時期にぴったり。いろいろな調味料に使えます。

豆腐を混ぜると軟らかく

 つなぎなしのそば粉100%でつくってみました。盛ったそば粉にくぼみをつくり、湯を注いで箸で混ぜながらまとめて団子をつくります。経験がない僕は熱湯の分量の加減をみながら慎重にすすめます。

 まとまったらよくこね、ころがしながら丸めて、手のひらで押して平らにします。そば打ち用の麺棒がないので手近な麺棒で代用し、ころがして伸ばします。硬めです。豆腐を混ぜてつくると軟らかくなるそうです。

 丸めたのを適当にちぎってゆでてもいいのですが、せっかくなので薄くのばして三角形に切り分けます。厚さは2ミリ近くもありました。薄く伸ばすには軟らく仕上げるのがコツのようですが、僕の技量ではここまで。

 鍋に沸かした熱湯にかっけを入れます。浮かんできたらできあがり。味噌はしょっぱい(塩辛い)中に甘みと香りを感じました。甘みは麹の力かもしれません。味噌とにんにくも合います。

昔は味噌と雑穀が基本

 かっけは小麦粉でもOK。豆腐や白菜などの野菜と煮ればお酒が恋しくなる一品になります。切りそばが晴れ食ならかっけは普段の食事です。昔は平たくした「そばもち」を囲炉裏の灰にすべりこませ、時間をかけて火を通して香ばしく仕上げました。

 昔は味噌と雑穀が食事の基本アイテムでした。あるもので食べます。あれがなければこれがなければということはありません。でも相性のいい素材の組み合わせがあります。素朴だからバリエーションは柔軟。岩手の食の奥深さを感じます。

大谷 洋樹 ・・・プロフィール

日本経済新聞記者、生活トレンド誌編集などを経て盛岡支局長を最後に早期退職、盛岡市に暮らす。山と野良に出ながら自然と人の関係を取り戻すこと、地方の未来を考えながら現場を歩いている。著書に「山よよみがえれ」「山に生きる~受け継がれた食と農の記録」シリーズ。

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