グリーン成長戦略④電力の本気度を問う 自らゴールポストを遠ざける
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が成功するかどうか。そのカギを握るのは電力業界です。
カーボンニュートラルに至るまでの道筋をみます。日本のCO2排出量は2018年で10・6億トン。2030年には9・3億トンと25%削減し、その20年後の2050年には排出と吸収で実質ゼロにします。削減率はもちろん100%。2018年に排出していたCO2は排出と吸収の差し引きでカーボンニュートラル状態に到達するシナリオです。
2050年にゴールできるかは電力の活躍次第
電力業界の排出量は日本が排出するCO2の過半近くを占めます。脱炭素の切り札と掲げていた原子力発電は2011年の東日本大震災による福島第一原発事故で多くが休止に追い込まれ、化石燃料に依存する火力発電に頼らざる得ないからです。止むを得ない状況です。
グリーン戦略の描くシナリオをみると、電力業界が排出するCO2排出量は2018年で4・5億トンと換算。2030年時点で3・6億トンに縮小。2050年にはCO2を排出しない、あるいはCO2を回収して電力源へ転換・吸収して実質ゼロをめざすことになっています。その内訳は再生可能エネルギーで50〜60%と過半を代替する一方、原子力やCO2を再利用する火力などで30〜40%、水素・アンモニアで10%、さらに植林などでCO2を回収する方策を描き、化石燃料の活用をかなり抑制する腹づもりです。
再エネは予想以上に普及、それが足かせに
実際、太陽光や風力など自然の力を利用した再生可能エネルギーによる発電は予想以上に増えています。国内外の専門家の意見を見ていても、欧米や中国に比べて出遅れていた日本の再生エネの導入スピードの速さは評価されています。
ところが、です。電気事業連合会が定期発行する広報誌「Enelog」をパラパラと読んでいたら、カーボンニュートラルに対する電力業界の本気度を疑うコラム記事をみつけました。コラムの筆者の考え方などに反論する気もありませんし、このコラムを掲載したのは編集権を持つ電気事業連合会です。長年この広報誌を読んでいるので、電事連の意見、本音を代弁するメディアの役割を担っていることがわかっています。小さなコラム記事だからといって無視するのは失礼。電力業界の本音がチラッと見えた気がしましたから。
電事連の広報誌に本音がチラッ
今回の「Enelog」は、主なテーマが2022年夏の節電のお礼とともに冬に向けての需給対策についてです。電力需給の現況を説明するとともに、電力各社の電力供給余力を示す予備率の低さを改めて示しています。節電を求めなければいけない背景には、原発が再稼働できない現況、火力発電の補修点検や休止火力の再稼働などのやりくりして、10年に1度の厳しい冬を想定した需要に対応せざるを得ない厳しい電力需給があります。
さてコラムです。タイトルは「再エネの導入で供給構造に変化 バランスの取れた電源構成を」。まず電力需給逼迫の背景には供給側の大きな変化があると指摘します。太陽光発電など再生可能エネルギーの導入が予想以上に進む一方、火力発電は稼働率が落ちて固定費を回収できなくなり、休廃止となっているとみています。さらに小売自由化で他の民間電力の卸売りが拡大した結果、電源投資を見通すのが難しくなり、電力会社の火力発電の休廃止に拍車をかけ、結果的に供給力が減少したと考えています。
2050年カーボンニュートラル実現という野心的な目標に向けて、再エネは優先課題と承知しているものの、「今後の電源構成を考えるうえで重要なのは、社会経済の持続可能性を維持しながら、いかに化石燃料から移行していくかということです」と指摘。続いて、短期的には火力発電の維持・リプレース、中長期的には火力発電のゼロエミッション化それぞれを実行する必要があると説明し、「火力の投資意欲が低下しており、それをもう一度喚起する仕組みづくりも必要になります」と強調。そして原子力発電は安定供給、電気料金の抑制、環境適合性を考慮すれば、再稼働、新増設を進めていく必要があるとします。