地球は沸騰 地上は南北対立で沸騰 COP28予想通りとはいえ瓦解寸前の国際合意
予想した通りの展開とはいえ、やはり紛糾しました。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動会議COP28は12月12日の会期末までに合意できず、会期は延長。今回は初めて気候変動対策の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク」が実施されました。地球温暖化対策の実効性を精査する在庫棚卸しです。ところが、当初案に、よりCO2排出を抑制するに打ち出した「化石燃料の削減」を記載したところ、議長国のUAEが消極的な合意草案を提示したたため、欧米や島嶼国が反発、紛糾の渦に突入しました。会期末の翌日13日、「2030年までに化石燃料から脱却する」を盛り込んで合意文書を採択しましたが、「脱却」の言葉の重さがよくわかりません。妥協のための言葉選びで終わったのなら、結局は国際的合意が機能不全に陥る恐れが出てきます。
議長国は産油国のUAE
COP28には、もともと危うい空気が感じていました。議長国はUAEです。世界の産油地域である中東の一員であり、自国経済の繁栄を支える石油や天然ガスの産出を抑制してまで、地球温暖化の元凶とされる化石燃料の削減をリードできるかどうか疑問だったからです。ドバイの豪奢な街並みを見てください。石油と天然ガス、そして金融でほぼ出来上がっているのですから。
新聞やネットのメディアによると、12月11日に提示された合意草案では、当初の文書案に「化石燃料の段階的廃止」が記載されていましたが、議長案では「消費と生産の両方を公正で秩序だった方法で削減する」と変更されたそうです。当初の文案とは大違い。明らかに後退しました。
ロイター通信によると、南太平洋の島嶼国のサモア環境相は「化石燃料の段階的廃止への強い関与を打ち出さない文書案には署名できない」と発言しています。サモアのみならず島嶼国は温暖化による海面上昇の影響をまともに受け、侵食が深刻な問題になっており、国土保全に向けた施設建設が急務となっています。
南北対立の様相も
欧州連合(EU)も文案の見直しを求めていました。 「化石燃料の段階的廃止」には米国やカナダ、ノルウェーなどの原油生産国を含む100カ国以上が賛成しているそうです。途上国が欧米など先進国の火力発電の大幅削減を求めている中で、欧米各国は現実的な削減策への転換を念頭に受け入れています。
これに対し、サウジアラビアやロシア、イラク、イランなどの産油諸国が反対しています。フランスの公共放送「フランス2」は産油国 ロシア、アフリカなどは、経済発展を阻害すると主張しており、新たな南北問題となっていると伝えています。ロシアはウクライナ侵攻の軍事費用を石油と天然ガスで賄っています。中東の産油国は自国経済の大黒柱です。石油・ガスで稼いだ巨額マネーがあるからこそ、ドバイなどが世界の金融センターとして生きていけるのです。
しかも、世界最大のCO2排出国である中国は「化石燃料の段階的廃止」に対し、どちら側に立つか明確に示していませんでした。中国は太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電に巨額投資していますが、実態は化石燃料を使った火力発電に大きく依存しており、CO2の排出量も増え続けています。仮に「化石燃料の段階的廃止」が正式文書として盛り込まれれば、経済の足枷になるのは間違いありません。
過去のCOPはいつも会期末に我慢比べの様相になります。今回は議長国が化石燃料の代表であるUAEだけに、外交官が得意の言葉遊びで意味不明の合意案に持ち込めるのではと危惧していましたが、案の定「化石燃料の段階的廃止」から「化石燃料の脱却」へと言葉が差し替えられました。
妥協の余地が狭まっている
これまでのCOPは京都議定書、パリ協定など国際的な枠組みが議論され、合意を形成してきました。しかし、ここ数年は、先進国と途上国の利害が衝突する場面が増え、その妥協案として気候変動対策を名目にした経済援助の基金設立や拡大が取り沙汰され始めています。次第に参加国の意見調整で妥協の余地が狭まっている印象を持ちます。
今回のCOP28は対立構図がより複雑に絡み合い、妥協点を見出すことに四苦八苦しています。化石燃料を消費する欧米や日本に対し、産油国などが自国経済の維持を掲げて反対しているほか、米国、欧州はウクライナ侵攻を巡ってロシアと対峙しています。アフリカなども資源輸出や排出権取引による金融ビジネスを念頭に欧米に揺さぶりをかけています。地球温暖化、気候変動、脱炭素は会議の主要テーマとしてテーブルに置かれていますが、テーブルの下には他の案件がいくつも議論されているような気がします。
地球沸騰のグテーレス事務総長が妥協を求める
国連のグテーレス事務総長の発言が会議の舞台裏の全て物語っています。地球は沸騰していると強い警鐘を鳴らしたにもかかわらず、COP28の会期末に「妥協で解決策を求める時」と述べています。最終合意文書には確かに妥協の跡が残されています。「化石燃料からの脱却」がどの程度の実効性が担保できるのか。すぐに「グローバル・ストックテイク」する必要があるかもしれません。