経済学の名著

「新しい資本主義」の無視は、子供の未来も無視するの? 

経済学と聞くだけで、「もう重いなあ」と読むのがいやになる人が多いはずです。まして「資本主義」なんて文字が飛び交うともうお腹いっぱいになるでしょう。しかし、日本の経済は明らかに立ち往生しています。コロナ禍という大きな災害の陰に隠れてしまっていますが、日本経済の病巣は深刻です。足踏みしたままの経済成長、半導体不足に象徴される製造業の沈滞、世界の金融政策から取り残されている日銀、非正規雇用が4割も占める雇用状況ーーー 数え始めたら、指10本では収まりません。昨年秋(2021年)に就任した岸田首相が「新しい資本主義」を掲げ、改革姿勢を打ち出したのは良かったです。しかし、その新しい資本主義の姿がまだ見えません。むしろ、気休め程度の日本経済への処方箋で終わりそうで心配です。

1月末の読売新聞一面に伊藤元重・学習院大学教授のコラムが掲載されました。現状認識として1990年代のバブル経済崩壊後、「失われた30年」と言われる低迷が続いていると指摘します。伊藤教授は記事を経済の現状を低成長・低金利・低インフレ(デフレ)の三点セットと指摘し、賃金の低迷、中間所得層の弱体化、所得格差の広がりで経済全体に構造的な問題があるとの認識を示します。日本経済の長期低迷の主因は人的資本への投資不足と説明し、教育や人的資本への投資こそが、新しい資本主義へとつながると考えています。「新しい資本主義」に期待するのは過剰な公的介入ではなく、健全な資本主義の機能を取り戻することと結論付けていました。

「新しい資本主義」は風邪の処方箋とは違います

まず伊藤教授と議論する考えで書いているわけではありません。ご承知ください。伊藤教授は読売新聞に限らず多くの新聞・テレビにも登場しますし、政府の政策関連の会議にも参加するなど経済政策に関して大きな影響力を持っています。伊藤教授が登場するイベントは多くのお客さんが集まることでわかると思います。それもあって今回の記事を例に取り上げました。

このコラムを読んで不思議だなと思ったのは、日本だけでなく世界で資本主義に対する問い直しが広がっているにもかかわらず、日本経済の再生は健全な資本主義の機能を取り戻すことであると考えている点です。えっ、不健全な資本主義って何ですか?

文章量に制限がある新聞記事ですから、結論を導き出すまでの背景が省略されているのも理解しています。それを前提に続けると、読後感の印象は岸田首相が唱えている「新しい資本主義」がまるで風邪の処方箋のようにあちこちを修正すれば、健康が回復できますと説明しているかのようでした。

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