立ち泳ぎが続く日本経済、30年間、賃金も初任給も年収もGDPもちょっとだけ

 日本経済は、世界経済という大きなプールで溺れずにいられるのでしょうか。1990年代初めにバブル経済が崩壊して以降、好不況を繰り返しながらも、政府も企業も国民もなんとか水面下に顔を出して息を吸おうと努力しましたが、GDPでは中国に追い抜かれ、世界第3位に。賃金、年収など国民の生活レベルに直結する経済指標は30年間、ほとんど伸びず、他国がどんどん追い越していきます。日本はまるでプールで立ち泳ぎしているかのようです。そろそろ息切れも近い。そんな怖さを覚えます。

取り残される日本の賃金

 経済状況を最も身近に感じる賃金が上昇していません。OECDによると、2020年時点で日本の平均賃金は35カ国中22位。賃金の伸びを30年間でみると、日本は4%超とわずかに増えただけ。ところが、米国や英国は40%以上、ドイツやフランスは30%以上もそれぞれ増加しています。

 賃金の額でも後退が目立ちます。日本の1時間当たりの最低賃金961円はだいぶ以前に韓国に抜かれ、今はなんとオーストラリアの5割以下。20年前、日本は韓国の2倍以上あったのですが、10%程度も下回っています。1970年代後半、学生としてアルバイトに精を出していた私の時給は当時、450円。半世紀近い過去ですが、やっと2倍を上回った程度。あちこちから追い抜かれるのも道理です。

初任給は93年から3万円増えただけ

 初任給も悲しい状況です。大企業の大学卒・男性の場合、2022年で21万6000円程度。1993年は19万円程度ですから、ほぼ30年間で2万円しか上がっていません。43年前の1980年に入社した私の初任給は確か12万円程度です。40年前と比べたら、初任給は倍近く増えた計算になりますから、1990年代から初任給の増加率に急ブレーキがかかったことがわかります。

 連合が7月5日、今年の春闘を最終集計して正社員の賃上げ率は平均3・58%だったと発表しました。物価高や人手不足を受けて前年より1・51ポイント増え、30年ぶりの高水準です。もっとも物価上昇率も30年ぶりの勢いで、賃上げ率が追いつかず、実質賃上げ率を考えたら、手取りベースで増えるとは思えません。

今春闘の3%超の賃上げ率でも不足

 日本経済は完全に負の循環から抜け出せないでいます。不況になれば、製品値上げより値下げを優先。値下げ分の原資を確保するため、従業員の賃金は増やせないと経営判断します。正社員数を増やさず、パートなど非正規雇用を増やして全体の人件費を抑え込みます。日本経済が浮上しない限り、売り上げは伸びませんから、製品価格は再び値下げするか、横ばいを維持するしかない。この30年間、GDPはほぼ横ばいですから、賃金が増えるわけがありません。30年間、この繰り返しです。

 産業革命以降、資本主義で成立する世界経済は多少の物価上昇を織り込みながら、成長する方程式を体現しています。欧米などは躊躇なく値上げして、利益を確保しようとします。もし利益が出なければ大胆な雇用カットを実行します。この経営スタイルが良いかどうかはともかく、日本の政府も企業も思い切った改革を決断せず、小手先で目の前の苦境をかわそうとしてきました。すでに日本経済は「新しい資本主義」どころか、資本主義そのままから離脱しているのかもしれません。

日本は資本主義から離脱しているかも

 30年間も出口を見つけられずに迷路を右往左往し続けていますが、出口は見つけられるのでしょうか。例えばドン・キホーテ。価格破壊に向かって元気に頑張っていたドン・キホーテが最近、さらに割安なプライベートブランド(PB)を増やして利益確保に必死です。イトーヨーカ堂やイオンと同様な小売戦略を選択する姿をみると、日本のデフレマインドに変わりがないと痛感せざるを得ません。

 ドン・キホーテのインフレ版?、言い換えれば、どんどん製品を値上げして、その代わり従業員の給与や時給も10%ぐらい上昇させる破天荒な、いや勇気ある企業経営者が現れない限り、もう日本のデフレマインドは打ち壊せないかも!?。

 大企業が大幅な賃上げをしているじゃないか。そんな指摘もありますが、その賃上げ分の原資をどう確保しているのでしょうか。万が一、取引先企業にしわ寄せしているなら、差し引きゼロ。この30年間、続けてきたことと何も変わりません。経済同友会の代表幹事を務めるサントリーはじめ大胆な値上げ転嫁を進めてください。

 もうデフレのプールを立ち泳ぎするのはやめましょう。日本銀行が最初にプールから這い出るのかどうかわかりませんが、そろそろ地に足をつけて迷路の出口を探しましょう。あまりにも稚拙なマイナンバーカードの不正問題などをみていると、もう国民みんなが希望を失ってしまいます。

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