地方創生)サイゼリヤは半導体のTSMC、ラピダスに負けない 岐阜県神戸町に新工場
石破首相にとって最も重要な政策は地方創生。来年度予算案で地方創生の交付金を倍増するとともに、新たな経済対策で農林水産業や観光業を支援します。「地方と都市が結び付くことにより都市部の方々にとっても、仕事や学び、余暇を含めた暮らし、人生の選択の幅が広がることになる」と経済効果の広がりを説明します。
地方創生の切り札として企業誘致がよく話題になります。最近では世界最大の半導体メーカー、台湾TSMC の熊本県進出でしょう。工場は将来3カ所になる見通しで、設備投資は何兆円に膨らみます。国から兆円単位の助成金が投じられ、ソニーやデンソーなども出資。周辺にはTSMC に製品を供給する半導体関連のメーカーが相次いで進出しています。TSMCの直接雇用だけで1700人、地域全体では1万人の雇用を創出すると試算されています。
半導体工場は土地や人件費の高騰などの弊害も
半面、土地代や人件費の高騰を招き、地域の日常生活・経済の歯車が狂う大きな負担も生み出します。北海道・千歳市でも半導体の日の丸プロジェクト「ラピダス」の進出によって同様な諸問題が顕在化しています。地域の身の丈にあった地方創生、あるいは企業進出を選択する発想を忘れて欲しくないです。
こんな事例はどうでしょうか。イタリア料理のレストランチェーンのサイゼリヤが岐阜神戸町の工場用地に新工場を建設します。規模は鉄骨4階建て、延べ床面積約3万平方メートル弱で、2026年1月に着工し27年4月に完成する予定です。設備投資は約95億円を見込んでいます。工場はサラダ、スパゲティ、ピザなどを生産し、全国の店舗に配送する「セントラルキッチン」です。サイゼリヤの国内工場では最大規模だそうです。従業員は220人を見込んでいます。
サイゼリヤの製品を全国に配送できる好立地
岐阜県神戸町を選んだのは、その立地の良さ。岐阜県は日本のど真ん中、ヘソを自負していますが、工場の場所は東海環状自動車道・大野神戸インターチェンジに隣接しており、関東と関西の中間に位置するそうです。店舗の売り上げ状況を見ながら、製品を東西へ振り分けるには最適な立地と判断しました。サイゼリヤは国内外で1500店を展開していますが、中国などアジアで絶好調の勢いを見せていますから、生産能力の拡大などで雇用数はさらに増えるかもしれません。
サイゼリヤの松谷社長は「岐阜は日本の真ん中にあり、水が良く、野菜がおいしい。皆さんに喜ばれ、地元に貢献できる工場にしたい」と話しており、神戸町の藤井町長が「町の将来、命運がかかっている事業だ。町として全力で支援していきたい」と力が入るのも当然です。
サイゼリヤの工場の投資、雇用数はTSMCに比べれば2桁も3桁も違います。しかし、神戸町にとっては、藤井町長が話す通り、地域の未来をしっかり固める計画です。神戸町の人口は1万8000人。2010年までは2万人で推移していましたが、2020年には1万9000人を割りました。65歳以上の高齢者比率は33%。全国平均が29・3%ですから、若い世代が多い地方自治体といって良いのではないでしょうか。
規模は小さいが、自治体の身の丈にぴったり
サイゼリヤの雇用220人がどのくらいの効果を期待できるか。神戸町の15歳から65歳までの生産人口は1万人程度ですから、サイゼリヤの220人は生産人口の2%ちょっとを占める比率です。物足りないと感じますか?そんなことはないはずです。従業員の家族構成はそれぞれ違うので試算は難しいですが、世帯数と人数を考慮すれば220人の雇用は、1000人程度に経済的な恩恵が及ぶと試算しても問題はないと思います。ちょっと乱暴ですが、そうなれば経済効果は神戸町の人口の5%超に広がります。
経済効果はもっと期待できます。若い世代が神戸町で働くことができれば、町外に出ず地元に残る可能性も増えますし、逆に町外から移住する人も期待できます。経済の流入効果はまだあります。工場に食材や設備などを納入する配送会社などサイゼリヤの取引企業が神戸町を出入りします。配送作業を終えた後、昼食や夕食を町内で取り、出張者も増えます。その恩恵は神戸町の周辺地域にも広がり、経済効果はさらに拡大するでしょう。
地方創生で市町村の競争になってしまっては
地方創生の目的は、地域に新たな活力を呼び込む、あるいは創出することです。農水産業、観光業で地域が創出する経済力に大いに期待したいのですが、日本全国で同じコンセプトで活性化策に取り組んでしまったら、市町村同士で互い奪い合う結果になってしまいます。かつて流行した地ビール、ワインなどが好例です。
企業誘致も同じです。熊本県のTSMC、北海道のラピダスのような巨額な投資が空から降っていくる地域活性化も歓迎ですが、巨大な工場誘致は市町村レベルでは手に負えません。しかも、地方自治体の多くは用地や労働人口の供給に限りがあり、弊害が起こってしまうのが現実です。サイゼリヤの新工場は半導体に比べれば食い足りない印象を持つかもしれませんが、地方の中堅自治体にとってはちょうどピッタリ、腹八分目といったところではないでしょうか。