仲屋むげん堂 ネパール・インド、ついでにフェアトレード
日本経済の停滞を打破する若い世代の起業家を取り上げるニュースをみると、必ずと言って良いほど「フェアトレード」が大事なテーマとして取り上げられます。途上国から原料や製品を輸入する際、生産者らの利益を重視して公正な取引・貿易をめざす考えです。パキスタン、インドなどの女性らとカバンや衣服、装飾を生産し、日本へ輸入する起業家たちは、現地の厳しい生活状況を改善するアイデアと努力を重ね、自らの事業を話す表情も楽しそうです。もう30年ぐらい前から若い記者たちと話し合うと「フェアトレードに関する記事を書きたい」という声を聞いていましたが、この10年間ですっかり定着しているようです。
フェアトレードの話題で思い出す
フェアトレードの話題になると、どうして「仲屋むげん堂」の名前を思い浮かべてしまいます。ご存知ですか?1978年、東京・高円寺で生まれたインド・ネパールなどの衣服や装飾品を扱うお店です。中古レコードも販売しています。
「仲屋むげん堂」に出会ったのは、もう40年以上も前。当時、東京・阿佐ヶ谷に住んでいたので、お隣の高円寺を歩き回っていたら偶然、赤や青、金色の煌びやかな衣服や装飾品を並べている店が目に入りました。東北から上京した頃ですから「さすが東京。インドやチベットの”なんか”が売っている」。吸い込まれるようにお店に入ったのでした。高校時代はラビ・シャンカールのシタール演奏にハマり、その影響もあってチベット教の宗教書やマンダラを眺めて悦にいった時もありました。原色系の衣服や装飾品に抵抗感はありません。
学生の頃は”新聞”が目当て
品物はもう千差万別。今のお店に例えれば、ドン・キホーテの圧縮陳列が近い。商品棚という概念よりも、「これ面白いでしょ」と感じたカタマリが並んでいる印象でした。お客は品物の山をかき分け、小さな飾りや金工製品を手にとって驚きます。値段は安い。といっても、お金が無い学生です。どんなものがあるのか眺めるだけで終わり。お店にあった「手書きの新聞」を持って帰りました。
その新聞「むげん堂通信」がとてもおもしろい。インドやネパールに買い出し旅行へ出かけて、現地でさまざまな品物を集める話が掲載されています。しかも、どんなものが欲しいかを事前に教えてくれれば、探し出して買って帰ってくるというのです。ぼんやりとインドやネパールへ旅したいと考えていたので、「仲屋むげん堂の買い出しツアーに同行する手もあるなあ〜」と勝手に妄想にふけたりもしました。文章も巧み。お店のスタッフが現地で苦労しながら、でも実は楽しみながら買い出しする姿がイキイキと描かれています。お店の品物は買わなくても、このむげん堂通信だけでも欲しいと思い、定期的に通いました。
新聞で特集したことも
実は仲屋むげん堂を新聞記事に書いたことがあります。大学を卒業後、幸運にも新聞社に入社して、そして偶然にも小売りやサービスなどを扱う流通業を取材する立場になりました。入社早々、おもしろいネタを持っているわけがありません。「そうだ、仲屋むげん堂を記事にしよう」と思いつきました。1980年代初めです。仲屋むげん堂は創業が1978年だそうですから、まだ3年ぐらい経た頃ですか。インドやネパールが好きな若者は多いですから、すでに知られた存在だったかもしれませんが、インドやネパールを旅行しながら、現地の衣服や装飾品を買い集め、日本で販売する”ビジネスモデル”はまだ物珍しいと考えたのです。
記事は流通ネタを集める専門紙の一面で特集しました。仲屋むげん堂に似たコンセプトの小売り店を東京以外でも見つけ、強引に寄せ集めただけでした。反響は予想外に大きく、「仲屋むげん堂」のビジネスモデルは全国に普及するのではないかと思ったものです。
似たコンセプトのお店があちこちに
現実は予想を上回っています。仲屋むげん堂は今、冠に「元祖」の文字がついていますが、同様なコンセプトのお店が他の名前で増えているからのでしょうか?元祖や本家の文字が飛び交う業態は儲かっている証拠。このビジネスモデルはすっかり定着しているようです。
私自身、新婚旅行でネパール、インドを訪れているぐらいですから、その後もむげん堂を時々訪ね、いろいろな商品を購入しています。10年ぐらい前に買った手縫い製の袋は、外出する際にいつも携帯するため布が切れ、穴が空いても使っています。その手作り感が好きなこともありますが、インドやネパールのお店で並べられている風景と空気を思い出し、手製の布袋を体に纏えば現地の街を歩いている気分になるからです。仲屋むげん堂で残念なことといえば、手製がほとんどなので、気に入っても同じものを次回に手に入られないこと。仕方がないでしょうね。
カトマンズの街を歩く気分を楽しみながら
そんな細かいことよりも、大好きなネパールを思い出しながら、むげん堂で買った綿シャツを着て、気分だけですがカトマンズの街を歩く擬似体験を楽しみます。フェアトレードに貢献しているかどうかはわかりませんが、現地の人が潤っているならうれしいなあ。