南太平洋 ⑥ ブーゲンビル島 鉈(ナタ)1本あれば熱帯樹林で生活できる

 すでに顔馴染みはいました。パプア・ニューギニアの新聞記者です。ブーゲンビル島へ飛び立つ前夜、パプア・ニューギニアの首都、ポートモレスビーでメディア説明会が開かれ、その後に懇親会がありました。会場は小部屋を使ったので、ぎゅうぎゅう詰め。人口密度が高くてお酒が入ると、あちこちで議論が起こります。突然、ワァっという声が上がりました。騒ぎに目をやると、白人男性が唇から血を流し、殴った相手を指さしています。パプア・ニューギニアの男性記者でした。彼には説明会の後、現地の様子などを教えてもらい、親切なイメージしかなかったので「まさか手を出すなんて」と思っていたのですが、どうも白人男性が酔った勢いで「おまえは黒人のモンキーだから触るな」と言ったらしいのです。

 パプア・ニューギニアの記者は大柄だったので、理由はともかく周りの空気は険悪になったため、私は酔った勢いも手伝って騒ぎの輪に入り、彼の太い腕を掴んで「気にするな」と話しかけ、違う場所へ引き出したのでした。そんな縁でブーゲンビル島へ行った後、私が現地で不思議な顔をするとに独立運動を展開する革命軍、地元の生活などを解説してくれる仲になったのです。

パプア・ニューギニアの記者に川での体の洗い方、生活のノウハウを教えてもらう

 川のお風呂の素晴らしさを教えてくれたのも彼でした。日中は木陰に入れば楽ですが、青空の下を暑き続ければすぐに汗をびっしょりかきます。着替えを持ってきたとはいえ、洗濯は必要ですし、身体は洗いたい。日本人ですから肩まで湯に浸かりたいとの欲望に駆られます。夕方、パプア・ニューギニアの記者がシャワーに行こうと誘ってくれました。「えっ、シャワーなんてどこにあるの?」と聞き返したら、「歩いて十分ほどだよ」と言います。タオル一本を持って数人で歩き続けると、横幅5〜10メートルの川が現れてきました。シャワーってここ?

 すでに女性グループが水浴びをしています。私たち男性が加わったら、混浴じゃない!?「どこで浴びるの?」と尋ねると、もうちょっと上流へ行くと言います。女性グループより上流よりに50メートルほど遡った場所に着くと、「さあ身体を洗おう」。女性グループと距離があるとはいえ、ここで上着はともかく下着のパンツを脱ぐのは無理でしょうと言ったら、「こうやって洗うんだ」と教えてくれました。まず固形石鹸を片手に持って身体半分を川の流れに浸かります。パンツの端をグイッと持ち上げて、石鹸を持った手で股間も含めて洗い、次第に足から背中、頭と洗っていきます。

 まあ、順序は好き好きでしょうけど。通常のシャワーに例えれば、最大の水量で頭から浴びている状態です。洗った先から泡が流れていきます。気持ちは良いのだけど、どこを洗ったのか確認できない。しかし、強い水流で身体をマッサージしてもらっている気分になり、入浴中の気分は温泉の露天風呂に負けません。

 日本の温泉には野趣あふれる露天風呂という誉め言葉がありますが、こちらは川端にマラリヤ蚊が飛んでいるリスクも加わった野生の風呂を存分に味わえます。川風呂の師匠である彼は見れば、頭のてっぺんから身体半分までは石鹸の泡に包まれている。さすが慣れたものです。石鹸の泡立て方がうまい。肌が黒いので、石鹸の白い泡とのコントラストが綺麗に映えて、泡に包まれた黒ダルマが川に浮かんでいるようでした。「とてもクールだよ」と声をかけてあげました。

 「男性の洗った泡や汚れが下流で浴びている女性グループにとって迷惑にならないのか」と聞くと、「パプア・ニューギニアでは男性が上流、女性が下流という習わしなんだ」と言います。川での洗濯も男性が浴びている位置よりも下流で行うそうです。

 南太平洋にも「男尊女卑」という序列があるのかと質問したかったのですが、英語で男尊女卑が思い付かず、「そうなんだ」で終わってしまいました。以来、私は日本に戻っても自宅の風呂では固形石鹸で身体を洗います。あの川の水流に身を任せて身体を洗う快感は再現できませんが、自然と一体となった浮遊感が戻ってきます。

 ブーゲンビル での生活についてまだ書き足りません。結局、島民の皆さんにたくさん助けてもらいました。次回に続きます。

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