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ゼネコンが傷み始めたのかも 相次ぐ事故は事業地盤の劣化への警鐘 万博は無理でしょ

 「ご安全に」。この掛け声を聞いたことがありますか。早朝、建設工事で現場監督らが挨拶を終えた後、全員で一斉に唱えます。工事現場でちょっとしたミスは生命に直結します。1日を無事に終える安全第一が最も重要な仕事なのです。設計通りに工事を終える完成度と共に安全を最後まで守れるかどうか。建設会社を評価する尺度です。ところが最近、建設業界を代表する大手建設会社、いわゆるスーパーゼネコンが信じられない事故を相次いで起こしています。

「ご安全に」は現場の最優先事項

 9月19日、JR東京駅八重洲中央口に近い再開発工事現場で、鉄骨を組み立てた3階部分が崩落し、作業員2人が死亡し、3人がケガしました。再開発工事は2021年着工し、地上51階建て地下4階の商業ビルが完成する大規模なものです。 工事の請負は大林組と大成建設の共同企業体。ともにスーパーゼネコンの一角を占めています。というか、やはりスーパーゼネコン同士の共同企業体でした。

 なぜなら、この地域の再開発を請け負うかどうかはゼネコンにとって名誉と面子がかかっているからです。東京駅は皇居を目の前にした日本のビジネスセンターの顔です。周辺には日本を代表する大企業が本社を構える丸の内、大手町、日本橋、八重洲などが広がっています。再開発のビル建設を受注できるかどうかはゼネコンにとって名誉であり、日本各地の大規模事業を主導する力量を示す舞台です。スーパーゼネコンが失注するわけにはいきません。

 「赤字受注と分かっていても、取りに行く。あそこはウチが受注しなければいけない」。1990年代から丸の内や大手町など北口方面から再開発が始まり、多くのビル工事が進んでいる頃、あるスーパーゼネコンの社長が言い切っています。会社の名誉と将来の飛躍をかけているのですから、赤字受注したからといって事故を起こすわけがありません。安全最優先で工事しているとはいえ、いつも以上に手厳しい管理を徹底していました。しかし、今回の事故です。驚きました。

東京駅周辺の工事受注はゼネコンにとって名誉

 東京駅南口前の地域は再開発が目白押しです。今回の工事現場すぐそばの地区では三井不動産の大型複合ビル「東京ミッドタウン八重洲」が3月に開業したばかり。日本橋方面の常盤橋一帯では三菱地所が中期計画で日本でも最も高いビルを計画し、新たな街づくりに取り組んでいます。その東京駅周辺で大林組と大成建設が事故を起こすとは予想もしませんでした。

 大成建設は北海道の札幌市で耳を疑う事件を起こしています。3月、札幌駅前の建築中の高層ビルで、鉄骨の精度不良と発注者への虚偽申告があったと公表したのです。発注者のNTT都市開発が現場を視察した際、不審点を発見、施工不良と数値の改ざんが発覚しました。不正部分は建物の鉄骨部分でおよそ80カ所、コンクリートの床スラブで245カ所あったそうです。

耳を疑う施工不良

 建設計画は地上26階、地下2階でホテルやオフィス、商業施設が入居予定でした。発注者が定めた品質基準を満たしていないため、15階まで組み上がった地上部分の鉄骨を解体して建て直します。工事計画は2024年2月に竣工する予定でしたが、2年以上も先の2026年2月に延びます。工事全体の20%以上も進んでいましたが、やり直しです。損失額は240億円。驚きを超えています。

 静岡市では7月、架設中の橋桁が歩道上に落下し、作業員2人が死亡、8人が重軽傷を負う事故が起こっています。現場は国道1号静清バイパス「清水立体工事」。施工者は名村造船・日本鉄塔工業の共同企業体。落下したのは鋼製の箱桁で、長さ約63メートル、幅約2・5メートル、重さ140トン。ジャッキを使い、橋脚上で桁を約10mスライドさせた後、落下しました。

何かが壊れ始めているのでは

 ゼネコンの事故原因はさまざまです。もちろん、過去に多くの事故は発生しています。ただ、札幌市で発覚した耳を疑うような大成建設の施工不良などをみると、相次ぐ事故は工事現場を支える技術や人員体制で何かが起こっている気がします。東京五輪の際に目撃した国立競技場建設でも感じましたが、現場の人手や技術者が不足し、本来なら工事受注しない方が適切なのに受注せざるをない状況に追い込まれているのではないでしょうか。

 だからなのでしょう、直近の大阪・関西万博のパビリオン建設問題で人手不足を理由に建設業界から受注を拒否する声が上がっているのも理解できます。ゼネコンで何か劣化し始めているのかもしれません。ゼネコンの事業基盤を支える安全が大きく揺さぶられる変化が起こっているとしたら、ゼネコンだけでは収まる話ではありません。日本のどこかが壊れ始めている証拠です。

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