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アシモとマスク

テスラ8兆円、トヨタ16億円、桁違いの報酬格差が示す未来へのベクトル

 米EV(電気自動車)メーカー、テスラがイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に支払う8兆円を超える報酬が決まりそうです。偶然でしょうが、それからすぐにトヨタ自動車の豊田章男会長の役員報酬が16億円超とのニュースが流れました。日本の企業経営者としては巨額の水準でしたが、イーロン・マスク氏と比べれば桁違いの少なさ。この報酬格差は果たして日米の企業風土の差だけでしょうか。EVへの挑戦は無謀と揶揄されながらも、企業の時価総額で世界一のトヨタを抜き去ったテスラ。創業家出身を連呼する会長を戴くトヨタ。日本の自動車メーカーがかつての輝きを失った理由をこの報酬格差は物語っています。

2度の株主総会で8兆円を承認

 テスラは6月13日、定時株主総会を開き、イーロン・マスクCEOに560億ドルの報酬案を賛成多数で承認しました。報酬は自社株購入権を得る仕組みで、米国の企業経営者の報酬では史上最大だそうです。マスク氏の報酬は2018年に一度承認されましたが、一部株主が巨額を理由に取り消しを求めて提訴。デラウェア州裁判所は2024年1月、承認過程に欠陥があったとして報酬支払いの撤回を命じていました テスラの株主が改めて報酬案を承認した結果、実際に支払われる公算が出てきました。

 マスク氏はすでに30兆円を超える資産を保有する世界最大の富豪です。8兆円を受け取ることよりも、米国史上最高の役員報酬を世界に伝えることに意味を見出しているのではないでしょうか。

 州裁判所が撤回を命じた2024年1月、米モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマン会長が最高経営責任者(CEO)時の報酬として3700万ドル、160円換算で60億円近い金額を受け取るニュースが伝わってきました。金融機関、IT企業のトップが百億円単位の報酬を手にすることはもう珍しくありませんが、さすがに兆円単位の報酬はインパクトが大きい。

業績は芳しくないが、世界一であり続ける狼煙

 テスラは業績も株価も芳しくありません。世界のEV市場を席巻したテスラも最近の需要の急ブレーキで、一時期のオーラが薄れてしまっています。しかし、マクス氏にとってすべて予想通り、一時の足踏みに過ぎないのでしょう。業績悪化はあって当然。失敗なんて怖くないのです。

 火星移住までを睨んだ宇宙ビジネスのスペースX、生成AIなど人工知能を駆使したロボット開発・・・。多くのスタートアップに投資し、自らも創業して人類の夢に挑み続けるマスク氏です。素人がクルマが作れるのかと笑われたEVは、むしろ地に車輪が着いた確実な事業と考えているでしょう。日本円で8兆円を超える報酬は、テスラ、イーロン・マスクは、これからも世界一であり続ける。こう叫び、世界に伝える狼煙に映ります。

 4年連続して自動車世界一の座を守ったトヨタはどうでしょうか。6月25日に提出した2024年3月期の有価証券報告書で、豊田会長の役員報酬は16億2200万円であることが明らかになりました。トヨタ歴代の役員として最高額だそうです。前期は9億9900万円ですから6割以上増えました。内訳は固定報酬が2億8900万円で、株式として受け取る報酬が10億900万円。豊田氏は個人の大株主ですから、役員報酬以外に約14億円の年間配当も受け取ります。豊田会長は10億円を超えるかどうか気にしていないはずです。

佐藤社長は会長より10億円も少ない

 トヨタは世界企業です。役員報酬が巨額になることに驚きはありません。他の役員を見ても、佐藤恒治社長兼CEOは6億2300万円、早川茂副会長は3億8900万円となっています。ただ、不思議なのは、佐藤社長が豊田会長より10億円も少ないことです。1年前の2023年4月に就任したとはいえ、社長兼CEOはトヨタの経営全権を握り、会長よりも最前線に立って指揮する責務を負っています。

 役員報酬は連結営業利益や時価総額の変動率などを参考にした業績連動で決めています。今回は新たに中長期の取り組みで評価する仕組みも取り入れ、成長への貢献、3年分の連結営業利益や、5年分の株主総利回りなどに基づいて、欧州企業の水準を参考に決めたそうです。

トヨタの未来を描くのは誰か

 2024年3月期は5兆円を超える過去最高の営業利益を上げましたが、ここ数年は日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機の有力グループ企業による試験結果の偽造が相次ぎ、直近ではトヨタ本体でも「型式指定」制度を巡る不正認証が発覚しています。好決算も不祥事も豊田社長時代に起因するもので、就任一年目の佐藤社長はトヨタのイメージ回復に努める役回りを強いられました。出遅れと批判されていたEVへの巻き返しも宣言、ここ数年ガバナンスに不安が指摘されたトヨタに変革の機運を感じる活躍をみせました。

 報酬の算定は公正に、中長期的な視点を加えて算定されてることは承知しています。ただ、2024年3月期で見る限り、佐藤社長の貢献度とは対照的にトヨタの不正認証に関する言動で世間から厳しい視線を浴びた豊田会長との報酬格差が10億円も開くとは思えません。

 テスラの場合、創業者の1人であるイーロン・マスク氏だからこそ8兆円超の報酬が議論されるのはわかりますが、創業家出身ということで社長の地位に座り、トヨタグループ全体の未来図を描けないまま会長に退いた人物にトヨタ史上最高の16億円を支払う意義がよくわかりません。結局は社長兼CEOは創業家にとって番頭の位置付け?。旧態依然の経営意識がまだトヨタ社内に残滓としてあるなら、トヨタの未来を描き、実行するのは誰なのか。従業員ら現場の人間は不安を覚えるでしょう。

未来は数字以上に差が開いているかも

 8兆円と16億円。この報酬格差は、テスラとトヨタ両社の未来の差を見事に暗示しているのかもしれません。数字で示された差よりも大きな未来の違いを映し出しているようです。

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