JR双葉駅の時計は2時46分に止まったまま 避難解除後、希望のとびらが開き、針が動く時は
JR常磐線の双葉駅を1年ぶりに訪れました。
1年前の2021年11月に訪問した時は、駅の向かい側は長々と白い塀が立ち並ぶ圧迫感がすごく、塀の向こうには何があるのだろうと思ったものでした(苦笑)。町役場の新庁舎が建設中でした。駅構内と隣接しているコミュニティーセンターは閉鎖状態。しかも、その日は猛烈な強風が吹き、常磐線が運休や大幅遅れが発生。双葉駅の無人改札口で居合わせた男性と二人で苦笑いするしかなかった思い出があります。
駅前には新しい町役場
1年後、まさに秋の行楽シーズンにふさわしい晴天に恵まれ、青空と空気が爽やかです。視界を遮るように並んだ白い塀は消え、完成したばかりの町役場が目の前にあります。コミュニティセンターも改装されたようです。双葉駅の乗降客は見かけせん。仕方がありません。ちょうど土曜日週末でしたから、役場を訪れる人はいません。それでも、役場前に掲示された移住者支援の告知などを眺め、この1年間の違いは実感できしました。
なんとなく開放感を覚える駅前広場に立って駅舎に掲示された時計を見上げました。前回訪問時は東日本大震災が発生した午後2時46分を指したままでした。新しい双葉町の町役場は出来上がり、町の機能は動き始めたばかりです。時計の針も再び動き始める。そう思って見上げたら、針の位置は変わっていません。
時計は2時46分を指したまま。
正直、ショックでした。時計の針を動かさないと決めた町民のみなさんの胸の内はどうなのか。福島第1原発事故で周辺自治体は住民避難を余儀なくされましたが、双葉町は福島県で唯一、全町避難が解除されずに残っていました。2020年3月に双葉駅周辺だけ一部解除されたとはいえ、町民は住めません。全町避難が解除されたのは2年後の今年2022年8月30日。事故から11年5ヶ月後です。
ピンク色のとびらが目の前に
なぜ時計の針は動かないのか。双葉駅は無人駅。JR職員の姿を探しても見当たりません。駅構内とコミュニティセンターを結ぶ建物があるのですが、運悪く人影がありません。双葉町の紹介や町民の声を紹介する展示などがあるので、歩き回っていたら、目の前に突然ピンク色のドア。全然気づかなった。
「希望のとびら」と書かれた掲示があります。「双葉駅では、解除の瞬間(午前0時)に希望のとびらを開き、双葉町の新たなスタートを祝いました」と説明しています。誰もいないので、希望に向かう1人を増やしたいと思い、ドアを開け閉めしていたら、背中に「どうぞ、ごゆっくりしてください」と女性から声をかけられました。思わず希望のドアの取手を握りながら、「どうして駅の時計は2時46分に止まったままなのですか」とたずねました。
「時計の修理にお金がかかるし、町民の声も動かすのはどうか」
女性はまるで予想したかのように、すぐに答えてくれました。「時計を修理するのにお金がかかりますし、町民の皆さんにも時計を動かすのはどうかという声もありまして。町も町議会も議論したようですが、決められず時計は止まったままです」。か細い声ですが、はっきりと教えてくれました。
「ありがとうございます」としか言えず、握っていた取手を動かして希望のドアは閉めました。