
ニデック挫折の教訓 ④ 社長の形骸化が止まらない、トヨタ、キヤノンあちこちに
ニデックの第三者委員会が公表した調査報告書は、最高権力者である創業者・永守重信氏の横暴ぶりを克明に描く一方、社長職がいかに無力かを炙り出しています。
2000年代に入って、最高経営責任者(CEO)、最高執行責任者(COO)などの肩書を採用する企業が増え、社長職という肩書の重みが不明になったことは承知していますが、果たして企業経営が進化しているのでしょうか。むしろ、社長職を退いて後継者に託したと言いながら、事実上の最高権力者として経営の実権を握り続ける方便に利用されているのが実情です。どうも社長の形骸化、あるいは軽量化に歯止めがかからないようです。
永守氏の眼中には社長はいなかった
調査報告書では、永守氏の「過度なプレッシャー」に対し岸田光哉社長がなんとか会計不正をせずに構造改革するよう進言する様を明らかにしています。
岸田氏が今般発見された会計不正を指示・主導したり、黙認した事実は発見されなかった。むしろ、2024年度に、永守氏に対し、「負の遺産」の処理に要する費用を事業部門や子会社の業績評価には織り込まない形での構造改革実施を繰り返し進言するなど、ニデックの財務健全化のために相応の努力をしたと評価できる。ただし、最終決定権限が永守氏にあったとはいえ、上記の形での構造改革を実施しなかった結果、会計不正が引き起こされる結果となっている。「負の遺産」の処理がニデックにとっての重要な経営課題であったことを踏まえると、岸田氏としては、「負の遺産」の内容を自ら精査し、仮に処理が必要な「負の遺産」があったのであれば、永守氏の意向に反するとしても、その処理を進言する必要があったと考えられる。
岸田社長の前任である社長経験者、小部博志、吉本浩之、関潤の3氏についても触れています。
ニデックの創業メンバーであり、かつて代表取締役社長を務めたこともある小部博志氏は、長らく営業を所管しており、経理業務を所管したことはなく、小部氏が今般発見された会計不正を指示・主導した事実は発見されなかった。また、小部氏が、会計不正を具体的に認識し、それを黙認したと認めるまでの証拠は発見されなかった。もっとも、小部氏も、頻度や詳細さは永守氏に及ばないとはいえ、特命監査を行っている従業員から報告を受けており、少なくとも概括的には、本来であれば直ちに是正が必要な会計不正が計画的に処理されていることを認識・黙認していたと認めるのが相当である。かつて永守氏の後継者と目され、代表取締役社長を務めたことのある吉本浩之氏及び関潤氏が今般発見された会計不正を指示・主導したり、黙認した事実は発見されなかった。
創業当初から永守氏と働く小部氏ですら不正会計を正す気配はなく、むしろ見逃していると認定しています。代表取締役社長として課させられた法的な権限と義務を背負っている意識があったと思えません。社長は肩書きと割り切り、ややこしい会計操作は永守氏の指示通りにするのが当たり前だった日常がわかります。まして吉本、関の両氏の場合、社長の椅子は腰掛け。不正会計に関与する立場でもなかったのでしょう。社長とは名刺に記載されている漢字に過ぎない。当時の現実が伝わります。
トヨタは3年で交代
もっとも、無力な社長はニデックだけではありません。トヨタ自動車を見てください。4月1日付で佐藤恒治社長は副会長に就き、新設するチーフ・インダストリー・オフィサー(CIO)の肩書きがつきますが、6月開催の定時株主総会で取締役も退任します。トヨタを離れ、自動車産業の競争力強化に尽力するためと説明しますが、体の良い左遷、というか用済み人事。
トヨタの業績は絶好調で、3年で社長から引き摺り下ろされる理由は見当たりません。さすがに無念だったのでしょう。佐藤社長は記者会見で「これからトヨタが向き合う経営課題に全力で向き合うためのフォーメーションチェンジだ」と社長交代の理由を説明しながらも、2023年4月に社長就任してからわずか3年間の在任期間について「正直短いと思うが、まだ3年だけど、もう3年でもある」と自らを説得するかのように話していました。
代わって社長就任する近健太執行役員・CFO(最高財務責任者)は豊田章男会長の最側近と言われていました。豊田社長時代に社長秘書として8年間務め、経理部部長、常務役員とトントン拍子にスピード出世。創業家・豊田がトヨタグループの実権を握り続ける盤石な布陣を敷き、近い将来に豊田会長の長男である大輔氏へバトンタッチするワンポイント登板です。あと何度か社長交代があると思いますが、事実上社長は不在も同然。豊田会長が好き勝手にハンドルを振り回る時代が続くのです。
キヤノンは御手洗氏が3回も社長
煩雑な社長交代には前例があります。キヤノンです。創業家出身の御手洗冨士夫氏は1995年からもう30年も経営の実権を握り続けていますが、1995~2006年と12~16年、20年から26年まで3回も社長を経験しています。ということは3人の社長をクビにしているわけです。
3回目の社長交代はつい最近の1月29日。小川一登副社長が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格します。御手洗冨士夫氏は会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)の3つの肩書きから社長職1つを譲っただけ。次世代の後継者を明確にして経営体制の移行を円滑にするとしていますが、90歳の御手洗氏が会長兼CEOとして67歳の小川新社長を育て上げるとはなんとも不思議な構図です。
ニデック、トヨタ、キヤノンいずれも日本を代表する企業です。その企業の社長は短期間で何度も交代され、経営の実権を握る人物は同じまま。ニデックの不正会計で明らかになった経営の欠陥は、どこの企業でも再発する可能性が高いと考えて良いのです。もう20年近くも企業倫理、企業統治などを総称するコーポレート・ガバナンスの重要性が叫ばれてきましたが、遠くに聞こえる「やまびこ」としか思えません。

