日産が円安で営業黒字に 56年前を下回る円の凋落に救われる日本経済の危機

 円の凋落が経営危機の企業を救う。なんとも複雑な気分に陥る決算見通しです。

 日産自動車は4月27日、2026年3月期連結決算の業績予想を修正し、営業損益が赤字から黒字に転換する見通しを発表しました。2月時点では600億円の赤字でしたが、500億円の黒字に転換へ。営業損益は1100億円も上振れします。赤字より黒字の方がホッとしますが、最終損益は前期の6708億円の赤字に続き、5500億円の赤字を予想しており、日産の窮状ぶりは相変わらずです。

 営業損益が黒字に転換する理由は、生産費や人員削減などの経営努力もありますが、やはり「経営環境の好転」が追い風に。米国で温室‌効果​ガスの排出規制が撤廃され、これに伴う引当金が取り崩しになったほか、予想を上回る⁠円安によって為替差益が急増しました。円安効果は売上高も押し上げ、11兆9000億円から12兆円に上方修正します。巨額赤字の連続で不安視されていたキャッシュフローも改善、1兆円を確保できそうです。

売上高も為替差益が押し上げる

 想定外とはいえ、1ドル160円を挟んだドル円相場は足元がおぼつかない日産にとって息を吹き返す猶予期間となるかもしれません。しかし、日本経済全体を鳥瞰すれば、そんな呑気なことを言ってられません。円の価値が着実に低下しており、それは日本の凋落を物語っているからです。

 通貨の実力を表す「実質実行為替レート」をみてください。円は2020年を100とすると、2026年3月時点で66・33。なんと統計が始まった56年前の水準を下回っています。海外からモノやサービスなどを取得する購買力が失われていることを意味しており、現に目の前で食料や原油など輸入品の価格高騰が止まりません。

 もっと不安な状況が待ち構えています。円の価値低下に歯止めがかかっていないのです。高市政権が発足した昨年10月時点のレートは70・81。わずかこの6ヶ月間だけで約6%も低下しました。高市首相が掲げる「責任ある積極財政路線」によって財政悪化が加速すると見て、円を売る動きが広がったからです

円の価値は3分の1に

 もっとも、円の凋落は30年以上も続いています。実質実行レートが最高値を記録したのは31年前の1995年で、現在より3倍も高い水準です。逆算するまでもなく現在の円の価値は31年前に比べ3分の1にまで落ち込んだわけです。

 高金利政策を維持した米ドルや欧州ユーロに対して日本円は金利ゼロが続いたこともありますが、もう30年以上も世界が刮目するヒット製品や技術を生み出せない日本経済の沈滞を象徴していると見て良いのではないでしょうか。

 経済指標でみても、GDPや年収は1990年代から実質ゼロ成長が当たり前でした。円の価値が3分の1に低下したといっても、今更驚くことではありません。

 しかし、日本政府をはじめ経済界に危機感が広がっているとは思えません。今も「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた1980年代の高揚感を忘れられず「本気を出せば、中国など新興勢力に追いつき、再び世界の表舞台に躍り出る」と信じ、円の凋落、日本経済の沈滞から目を背けています。日の丸プロジェクトとして最先端の半導体開発・生産に挑む「ラピダス」をめぐる高揚感ははその一例に過ぎません。

日本経済の実力は日産と同じ

「日本経済の実力は日産と同じ」。復活のスタートは、ここからです。日本の財政状況は、2期連続で巨額赤字を計上する日産よりもっと酷いのですから、まだ脇が甘いかもしれません。なにしろ日産は31年前に比べ3分の1にまで落ち込んだ円の価値によってようやく営業利益を計上し、企業活動の継続に安堵しているぐらいです。日本経済の実力は、すでに発展途上国の領域にあると割り切りましょう。日経平均6万円に上昇と浮かれている場合じゃありません。

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