
日本精工とNTNが経営統合 ミネベア・高橋高見の野望を手本に世界制覇を
米国のニューヨーク近代美術館でベアリングが展示されています。ベアリングを真円に造りこむ精緻な技術は、館内の世界の芸術作品と並んでも全く見劣りません。普段は機械部品として多くの人の眼に触れる機会がありませんが、ニューヨーク近代美術館が究極の産業アートとして評価した慧眼に脱帽したものです。
NY近代美にベアリングが展示
ベアリングは日本の製造業が誇る精密加工の極みと信じています。ただ、世界市場のシェアをみると、欧州2社が上位が占め、最近は中国の追い上げで経営環境は厳しさを増しています。美術館に展示されるベアリングを眺めながら「日本の製造業が過去の遺産として展示される日が訪れるかも」と寂しくなった瞬間がありました。
つまらぬ杞憂を吹き飛ばしてくれるニュースです。日本精工とNTNは5月、2027年10月に持ち株会社を設立して経営統合すると発表しました。日本精工の世界シェアは第3位、NTNは第4位ですが、統合によって世界シェアは24%に上昇。現在、第1位のスウエーデン・SKF、第2位のドイツ・シェフラーを抜き去り、トップに躍り出ます。
ベアリングは自動車や家電などあらゆる機械に使われ、世の中を滑らかに回転させる部品です。小さいけれど機械の精度を左右するほど重要で、真円のベアリングには長年の経験と最先端の技術が集積されています。ただ、中国の追い上げに加え、原料の鋼材、人件費などが高騰。日本精工、NTNは経営規模の拡大によるコスト削減が急務となっていました。しかも、従来の顧客である自動車や産業機械などの拡大は期待できず、ロボットや航空宇宙など成長分野への挑戦が迫られています。
世界トップシェアに躍り出るが・・
経営統合発表の席上、日本精工、NTNの両社長はコスト削減を軸に国際競争力を高めるとともに、次の100年に向かってロボットやドローンなど新分野の挑戦を表明しています。ともに創業100年を超える名門企業が未来に向かって経営統合し、世界トップのシェアを握るのです。「さあ、頑張って」と応援したいのですが、どうしても懸念材料が気になります。
日本精工もNTNもベアリングの名門企業として世界最高級の精密加工技術を培い、開発、生産、営業部門はいずれも優秀。一見、百点満点の経営統合に見えますが、名門企業だけに新たな挑戦に及び腰となり、コスト削減など守りの経営に終始するのではないか。果たして名門の固い殻を打ち破り、攻めの経営に転じることができるのか。
高橋高見氏に負けぬ暴れん坊ぶりを期待
100年を超えるライバルが手を結ぶのです。ぜひベアリングの世界を変える暴れん坊になってほしい。
どんな暴れん坊か? ミネベアの高橋高見氏はどうですか。父親が鉄屑商から創業したミネベアを継承した高橋氏は、1970年代に国内外で10社を超える企業買収(M&A)を展開して事業を拡大。1980年代には日本で初めて蛇の目ミシン工業、三協精機にTOBを仕掛けました。1985年には米ベアリングのNHBBを買収し、米国の名門を飲むこんだと話題を集めました。
新興企業ミネベアによる名門企業の相次ぐ買収劇は産業界にとって文字通り、下剋上。反骨の経営者、革命児などメディアでもてはやされましたが、敵対的なTOBを仕掛けたにもかかわらず、逆にM&Aで対抗されるなど日本経済を二分する大騒動に発展したこともあります。1989年にお亡くなりましたが、志半ばではなかったのではないでしょうか。
その後、ミネベアは娘婿の貝沼由久氏が継承し、高橋高見氏の真骨頂であるM&Aで攻めまくります。電子部品のミツミ電機、自動車部品のユーシンなどを手に収める一方、直径22ミリ以下のミニチュアベアリングで世界シェアの60%を握り、電子部品から自動車部品までの総合部品メーカーのミネベアミツミとなっています。それでも高橋高見氏は、野望はまだ現在進行中と思っているはず。
高橋高見流を日本精工とNTNに求めるのは無理と承知しています。しかし、それでは経営統合の意味はありません。企業は生き存えるでしょうが、世界トップのシェアは瞬間風速でおしまい。再びライバルに抜き去られるでしょう。名門企業の誇りを捨て去り、スタートアップ企業同様に世界制覇の野望を抱いて、M&Aや思い切った開発投資を決断できるか。これから100年の勝負手は始まったばかりです。

