
ナフサが炙り出す高市首相の安保 目先の問題解決で目眩し、難問は先送り
戦前の大本営発表を彷彿してしまいました。高市首相が4月30日に発表したナフサ(粗製ガソリン)の供給安定宣言です。供給不安によって生じる仮需の急増や買いだめを防ぐため、石油化学製品の原料であるナフサの国内供給について、調達先の多角化などで「年を越えて継続できる見込みとなった」と説明。「半年以上」としていた従来見通しを修正し、国民に向かって安定供給を確保できていると強調しました。
ナフサ供給安定は大本営発表?
1970年代の石油危機の際、トイレットペーパー不足の情報が駆け巡り、大量に買い占める動きが一気に広がり、日本中が大混乱した記憶が今も鮮明です。「あの混乱を避けたい」との狙いから、政府がナフサの需給に不安がないことを繰り返し強調することは理解できますが、果たして実情は説明通りなのでしょうか
残念ながら、販売現場の空気は変わっていません。例えばTOTO。4月13日、ユニットバスシステムの新規受注を一時停止、1週間後の20日に不安は解消されたとして受注を再開しましたが、浴槽など水回りに関連したメーカーの営業担当者の感触は「たとえ発注しても納入見込みは立っていない」。TOTOが受注再開を表明したことについても、ナフサ不足が高市首相への批判に及ばないよう周囲からの圧力を受け、外見上撤回しただけという見方が関連業界では支配的です。
たとえナフサが来年以降まで調達に不安がないとしても、原料を利用する関連メーカーが安心するわけがありません。供給不安が解消できない以上、万が一に備えて生産調整せざるを得ないからです。来年まで生産できても、「2027年春にナフサが手に入らないので生産中止しました」と顧客に説明できるわけがないからです。安定して生産し、販売することがメーカーが最大の責務であり、無責任な生産計画は顧客と信頼を失い、企業の存続に直結します。
否定できない石油危機
日本のエネルギー状況は石油危機寸前です。米国のイラン攻撃によって中東原油の要所であるホルムズ海峡は事実上閉鎖、日本が輸入する原油の9割が立ち往生しています。国外の石油備蓄の放出などでやり繰りしていますが、自ずと備蓄には限界があります。
高市首相はイラン大統領に電話会談したほか、石油産油国であるベトナム、オーストラリアを訪れて原油やガスの調達について合意を重ね、中東以外からのエネルギー源の調達に努力しているのは承知しています。
無用な不安を煽るつもりはありませんが、日本の原油輸入の9割を代替する資源を一年足らずで手立てできるとは思えません。
首相自らナフサの供給不安を否定した重みは尊重すべきですが、公言しないまでもそのまま納得するほどのお人好しは数字の裏付けが求められる産業界では数えるほどしかいないでしょう。
派手なパフォーマンスが得意な高市首相らしい演出と笑うわけにもいきません。先行きに待ち構える危機を「危機ではない」と説明することが日本の将来にとって良いことなのか。国民に対する目眩しと勘違いしてしまいます。
本来なら、石油危機を招く根源である米国のイラン攻撃の非常事態に取り組むべきではないでしょうか。
ところが、高市首相から発言は聞こえてきません。トランプ大統領が4月12日、米国がホルムズ海峡を封鎖すると表明した際、日本や韓国を名指しして「エネルギー需要の大部分を海峡に依存しているが、彼らは我々に協力しようとしない」との不満を示しても、高市首相は沈黙のまま。難しい問題は先送りしても、有耶無耶になるはずがないにもかかわらず、自らの考えは明言しないのです。
戦後80年以上もかけて信頼を積み重ねてきた同盟国である日本、韓国、オーストラリア、欧州各国が手を貸さないと繰り返し非難する米国。理解できません。日本のみならず、アジア各国では経済の大きな影響が出ており、欧州では航空会社がジェット燃料不足から運航停止を余儀されるとの情報も飛び交っています。
同盟国は属国ではない
「西洋の敗北」などで注目を集める歴史・人口学者のエマニュエル・トッド氏は、トランプ大統領の外交戦略を日本や欧州を「属国」として支配しようとしていると分析しています。第二次世界大戦で敗れた日本は、奇跡とまで言われた戦後復興を成し遂げましたが、政治や経済の裏舞台で米国政府や企業が暗躍し、操られていた事案があったのは否定できません。
だからといって、日本の生命線であるエネルギーの危機的状況に直面している時、「属国」扱いされたのではたまりません。日本国民はエネルギー危機の現実を直視し、新たな対応策を打つしかありません。国民が近い将来の危機から目をそらし、危機に突然直面する事態が許されるはずがありません。
なぜなら、日本は米国の属国ではありません。

