
東京ガス 2011年以前の東京電力と似てきた 顧客を忘れた経営戦略に未来はない
老眼が進んだせいか、直視しても焦点が合わず蜃気楼のように見える時があります。だからでしょうか、東京ガスがかつての東京電力とダブって映ります。1990年の湾岸戦争の頃、エネルギー産業を取材していました。もう35年が過ぎました。とはいえ見紛うはずがないのですが、2011年の東日本大震災で世界を震撼させた福島第一原発事故を引き起こす以前の東京電力と重なります。日本のエネルギー産業を代表する企業としての自負が慢心となり、他の批判に声を傾けず最も大事な顧客を蔑ろにする姿とそっくり。
エネファームよりも太陽光発電が大事?
営業の最前線。10年前に設置した「エネファーム」の寿命が迫ったため、営業スタッフと接する機会が増え、最近は東京ガスから届く電子メールやチラシを真面目に熟読しています。
エネファームに大きな不満があるわけではありません。東京ガスが供給する都市ガスから水素を取り出し、酸素との化学反応させる燃料電池で、発電と給湯を同時に行うのでエネルギー効率は非常に高く、CO2排出の削減や電気代の節約につながるといわれています。ガス給湯器に比べ機器代や設置費用などで高額となりますが、公的補助も使えましたし、電気やガスの省エネ効果のほかに災害などの停電時でも発電できるので万が一の事態も考え、選びました。
ところが、寿命寸前の10年後に訪れた営業スタッフの説明はがらりと変わっていました。まずメンテナンス。元々、燃料電池を長期間維持するのが難しいこともあって、機器を製作するメーカーは10年経過した後の機器に関するサービス体制を充実させる考えがないと話します。
もっと驚いたのは省エネ効果。10年前は機器、設置などで高額な費用はかかっても、公的補助や10年間の省エネ効果によって相殺されますと説明していましたが、「相殺されることはありません」。きっぱりと断言するので呆れました。「今後どう判断するかを考えておいてください」と言うので、「考える材料として省エネ効果のデータをメールで送ってください」とお願いしましたが、その後はなしのつぶて。
東京ガスは顧客データのデジタル化に力を入れており、「お客様の潜在的なニーズを捉えた瞬時の提案を実現する」と胸を張りますが、あまりお金にならない個別の要望に答える手間は省エネしているようです。
数ヶ月後、再び管轄の営業所からダイレクトメールが届きました。すでにスタッフの訪問を受けていましたが、「初めて連絡します」という趣旨で更新に関する説明をしたいので、連絡して欲しいとあります。「先日の訪問は詐欺だったのか?」という疑念がチラッと浮かびましたが、メモ書きで「今後の対応を考えるデータを欲しいとお願いしてもなしのつぶて」と説明、こちらがどう対応して良いのかアドバイスして欲しいと伝えましたが、こちらも再びなしのつぶて。
一方、東京ガスから届く情報は太陽光発電と蓄電池の説明会の案内がほとんど。営業最前線はエネファームから太陽光発電に乗り換えたようで、セールストークも10年前のエネファームと似ています。「疑問・質問にお答えします」に続いて「太陽光パネルはいつまで使える?」「太陽光って元が取れる?」などの項目が並びます。現在のエネファームの利用者からの質問はなしのつぶてのまま。太陽光発電との温度差を痛感します。
海外事業は25%まで拡大
東京ガスの2030年までの経営ビジョン「COMPASS」を眺めると、納得します。3つの挑戦と題して「CO2ネット・ゼロをリード」「価値共創のエコシステム構築」「LNGバリューチェーンの変革」を掲げ、世界を舞台にエネルギー会社として飛翔する意欲を示しています。営業基盤は首都圏に限られていますが、LNG (液化天然ガス)の事業化で東京電力とともにリードしてきた自負があるだけに、海外事業の拡大を事業全体の25%まで拡大する計画です。
もちろん、国内外に保有する2000万件の顧客数にも焦点を合わせていますが、一般家庭に対するきめ細かなサービスについて具体的な説明は見当たりません。
2000年代の東京電力も同じでした。世界最大級の原子力発電能力を抱える一方、LNGの調達、世界最高級の送電技術などを使い、自由化の波に乗って世界の発電事業に進出していました。国内の堅調な電力需要もあって、電力会社の営業部門は「電力の売り込みよりも省エネを呼びかけること」と揶揄されたこともありました。
東電も東ガスも独占にあぐらをかく?
東京電力も東京ガスも自由化されたといっても、営業地域はほぼ独占状態です。将来の事業成長力を考えたら、国内から海外へ広げるしかありません。だからといって、独占にあぐらをかいて一般家庭のサービスに手を抜くことは許されません。東京ガスは今、改めて足元に視線を戻し、自らの強さとは何かを考える時ではないでしょうか。

