
SNSの時代というけど「テレビが創り上げた権威の虚像」が世論を闊歩する現実
高市首相が任命した梁農水相の進退に並んで注目を集めている人事が、東京大学の次の総長に選ばれた藤垣裕子氏の去就。教職員による意向投票では最多得票の1107票を得たのは染谷隆夫副学長。藤垣氏は553票と半分でしたが、選考会議が指名したのは1位の染谷氏ではなく、藤垣氏。教員らがなぜ藤垣氏を選考したのかについて詳し説明を求める要望書を提出しています。
東大総長選の議長は「クローズアップ現代」の国谷氏
「へえ〜」と驚いたのは学長結果よりも、選考会議議長に国谷裕子氏が就任していたことです。NHKの看板番組「クローズアップ現代」のキャスターを務め、視点、舌鋒ともに鋭く迫り、集団的自衛権の行使を巡る閣議決定についてインタビューした際は当時の菅義偉官房長官を激怒させたほど。守りに入った取材対象に深く切り込む姿勢は多くの視聴者が支持し、ジャーナリストとしての気概に覚えました。
ところが、東大総長の選任については口数が少なく、自身が守りに入っているようです。議長の国谷氏は記者会見で「総合的に判断した」と強調していますが、「総合的に判断」という語句は霞ヶ関の官僚が質問をかわす際に利用する常套句。あの国谷氏が堅いガードで記者の質問から逃げてしまったのでは、魅力は半減します。
東大学長選考会議の議長に選ばれたのは、きっと幅広い識見を持つ人材などが理由です。日本の大学の頂点に立つ東大の総長を選ぶのですから、なによりも国谷氏のジャーナリストとして能力を発揮することが最も求められていたはずです。「クローズアップ現代」で多くの視聴者を魅了した鋭い視線で総長を選べば、多くの国民が納得すると踏んでいたはずです。
ところが、国谷氏は率先して説明するのが鉄則とわかっているにもかかわらず、沈黙を貫きます。NHKで築き上げたジャーナリストとしての自負はどこに行ってしまったのでしょうか。「張子の虎だった」と自ら告白しているのと同じです。
テレビで築いた虚像が一人歩き
いえ、勘違いは視聴者の方だったのでしょうか。テレビでの活躍を本物と信じ、勝手に「素晴らしいジャーナリスト」の虚像を築き上げていたのかもしれません。日本で最も経験と知識を兼ね備えた有識者という看板によって、東大学長の選考会議議長に祭り上げられてしまったというのが現実だったのでしょうか。
テレビの評価が一人歩きして、日本を代表する知識人としての圧倒的な存在感を放つ。国谷氏だけではありません。
林修氏と池上彰氏の活躍ぶりには目を見張ります。元予備校講師の林氏は卓越したプレゼン能力と核心を突く解説が人気。NHK出身のジャーナリストの池上氏は、『池上彰のニュースそうだったのか!!』などの冠番組で、複雑な国際情勢や時事問題を誰にでも分かりやすく噛み砕いて伝える手法で支持を集めています。ともに視聴者の知的好奇心を刺激する「解説系バラエティ」の主役として、不動の地位を築いています。
10年以上も林、池上両氏を超える人物は現れない
林、池上両氏の活躍はもう10年以上も続き、テレビの世界ではまるで何事も熟知している「知の巨人」のように演出されています。10年経過しても、林氏や池上氏を凌駕する人材が見当たらないのか。賞味期限切れが迫っているはずですが、テレビ業界が使い勝手の良い逸材を育て、守り続けているのか。
不思議なのは、SNS、ネットの時代になっても、テレビが生み出した「知の巨人」を上回る人材が登場しないことです。テレビを上回る情報量が飛び交い、人工知能(AI)によって数え切れないほどフェイク映像も拡散。 ネット・SNSの時代に入って絶大な影響力を持つインフルエンサーは数多く存在し、高市政権を生み出す原動力になるほど力を持っています。
にもかかわらず、政治・経済など小難しい世界の解説で国谷、林、池上3氏に肩を並べるのは西村博之、ホリエモン(堀江貴文)の2人ぐらいではないでしょうか。
ひろゆき、ホリエモンは東大総長選の議長には選ばれない?
西村氏はネットのつぶやきをエンターテイメントに仕立てた「2ちぇんねる」を創設。その後もYouTubeの「論破」カルチャーや、視聴者の悩みに答える生配信、Xでの鋭い時事評論で若年層から圧倒的な支持を集めています。堀江氏は、YouTubeでのニュース解説や、宇宙事業・地方創生といった先駆的なビジネスの発信、SNSでの歯に衣着せぬ発言で常に注目を集める存在です。お二人とも独自の切り口と圧倒的な発信力で、ネット世論を動かし続けています。
でも、西村、堀江両氏が東大総長の選考会議議長に就任することはないでしょう。テレビが創り上げた世論の権威はまだまだ健在と痛感しますか、世論形成の過程が健全とは思えません。

