カメラに向かって笑う

南太平洋⑦ ブーゲンビル島 We have a big torch

 もっと素晴らしい輝きを見ることができました。それは子供たちの目の輝きです。ブーゲンビル島には電気や水道などのライフラインが乏しいので、自家発電などで生活している集落があります。そこには子供たちが勉強する集会場のような建屋がありました。どんな暮らしなのかを知りたいと思い、向かいました。平和維持軍が設定している中立地帯に漂う緊張感とは全く異なる空気が漂う「普通の集落」がありました。生活の臭いがあり、歌や笑いが飛び交い、空気が動いています。私が訪れた時は数十人の子供たちが集まって歌を唄い、楽しんでいました。残念ながら歌の内容は理解できませんが、賛美歌のような雰囲気で歌い、日中の時間を楽しくそうに過ごしていました。建物の外から歌っている風景を見ていたら、一人の男の子が見たこともない色の人間(日本人の私)を見つけたぞとばかりに駆け寄ってきました。

子供たちの素晴らしい目の輝きこそ!

 私は思わずカメラでシャッターを切りました。そうすると思いもかけずカメラのストロボが発光してしまいました。ブーゲンビル島やソロモン諸島は世界でも最も肌が黒い地域だそうで、カメラのセンサーは島民に焦点を合わせると夜と勘違いしてフラッシュしまうのです。以前に書いた原稿で登場したブーゲンビル革命軍の幹部が集会に突然、登場した時も同じでした。カメラで撮影しようとしたら、ストロボが発光したのです。真昼間です。しかし、焦点が合った彼の顔は真っ黒です。カメラのセンサーは夜だと反応したのでしょう。後日、専門家に聞いたら、この現象はあるそうです。 

 ブーゲンビル島で撮影すると予想外にストロボが反応するのが分かったので、彼らの目に悪影響を与えてはいけないと思い、ストロボが反応しないように停止していたつもりでした。しかし、男の子が駆け寄ってきた時は夕方に近かったので停止操作をしていなかったようです。とても楽しそうに走ってきたのです。笑う表情が素晴らしい。あんなに楽しい笑顔はそうありません。良い写真が撮れるなと思ってカメラのシャッターを押した瞬間、ストロボが発光してしまいました。瞬間、男の子の眼を傷つけないかと心配したほど近距離でした。でも、男の子が発する目の輝きの方が素晴らしかった。私は取材を通じて数え切れないほど写真を撮影していますが、この男の子の目の輝きを捉えた写真に優るものはないです。

 ブーゲンビル島の生活は日本に比べるまでもなく厳しいものでした。でも、この男の子に目の輝きを日本で目にすることはありません。ブーゲンビル島で夜空の天上にある満月をbig torchだと思ったのは勘違いでした。この男の子の目の輝きでした。未来を感じます。それが日本より豊かな生活だと思えません。でも、彼は今を、そしてこれからも面白いことがあるはずと夢見る可能性を感じていたはずです。だからこそ今の日本で自問せざるを得ません。

「We have a big torch?」

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