
中内㓛、伊藤雅俊を超えた「鈴木敏文」カリスマが囚われる盲従の罠から逃れられず
鈴木敏文氏。日本の産業史で数少ない「Disrupor(破壊者)」です。戦後の流通革命を引き起こした「スーパー」を舞台から引き摺り下ろし、「コンビニエンスストア」を世界標準のビジネスに創造しました。
まるで高度成長期を終えた日本経済の未来を予見して個人消費の変化を先取りするように、スーパー全盛期に24時間営業のコンビニエンスストアを展開し、銀行や宅配など日常生活に欠かせないサービス業に進化させました。日本の個人消費に革命を起こした破壊力は、人工知能(AI)で沸くソフトバンクの孫正義氏を軽く上回ります。
ダイエー、ヨーカ堂を否定
鈴木氏の破壊力の凄さはイトーヨーカ堂の社員でありながら、飛ぶ鳥を落とす勢いだったスーパーのビジネスモデル、そして自らの社長も含め流通のカリスマ経営者を否定したことです。
1963年にイトーヨーカ堂に入社した鈴木氏は、まさに流通革命を目の当たりにしていました。戦後の闇市的な混乱期を乗り切った1970年代、米国の小売業を学んだ中内㓛氏は「ダイエー」で価格破壊、伊藤雅俊氏は「イトーヨーカー堂」で顧客志向を徹底、日本で「スーパー」と呼ばれる小売業態を構築、世界レベルに引き上げていました。巨大な売り場面積を要した旗艦店に消費者が欲しい商品をすべて揃え、割安に提供する。大きさを誇示する「バベルの塔」を築き、商品力と価格破壊力で真正面からぶつかります。勝負の決め手は力比べ。
ところが、鈴木氏は米国でコンビニエンスストアのモデルを学び、選んだ勝負手は真逆。中内、伊藤のカリスマ経営者が築き上げた「スーパー」成功モデルを打ち壊します。規模を競う旗艦店は捨て、100平方メートルの小規模店で勝負。売り場面積、商品点数は限られますから、売れ筋を厳選するマーケティングを徹頭徹尾、追求します。
営業時間は「セブンイレブン」の店名が示す通り、早朝午前7時から深夜午後11時まで。昼間、スーパーを利用できない若者や単身者などを想定しました。同じ客をスーパーと奪い合うことはなく、選ぶ商品や購入時間など消費行動が全く違います。
見極める目線はひとつ。「お客様は何を求めているのか」。中内、伊藤両氏も「お客様第一」を口にしますが、最優先するのは価格の安さと丁寧な接客。あくまでも商人、商店の延長線上。
鈴木氏は違いました。商品棚に欲しいものが並んでいれば、多少高くても客は購入する。接客は支払うレジだけ。1974年に東京・豊洲に第1号店を開店して以来、すべての店舗で朝昼晩の時間帯で商品別に売れ行きを分析し、データ化。店舗での品不足を防ぐため、1日に何回も商品を配送する物流システムもきめ細かく設定します。
目線は「お客様は何を求めているのか」
商品開発も目線は同じ。これまでの常識に囚われません。お母さんは手作りするのが当たり前と思われていた「おにぎり」の商品化などはその典型例でしょう。
店舗運営はすべてデータで裏付けられていますから、中内、伊藤両氏のような「懐の深さ」は見当たりません。店主にはマニュアルの徹底を求め、物流業者には定時配送の厳守をします。出店も容赦ありません。「セブンイレブン」の潜在顧客がまだまだ増えると判断しすれば、既存店が反発しても近接地に開店します。当然、裁判沙汰や反発が噴出しましたが、怯みません。
データ至上主義は絶対でした。コンビニを訪れる客層の変化を読み取り、「高くても品質が良く、おいしい惣菜なら購入する」と確信して商品開発した「セブンプレミアム」は大成功。「開いてて良かった」のコンビニの殻を捨て、銀行ATM、宅配便など生活に必要なサービスを提供できる拠点に。すべて鈴木氏の読み通り。
カリスマ経営者は盲従の社員に囲まれる
ただ、データ至上主義では予見できない罠が待っていました。日本全国を席巻したスーパーがコンビニに駆逐されたのは、経営革新できないスーパーの自壊がありました。品揃え、価格戦略すべてを決めてきたカリスマ経営は百貨店を凌ぐ小売業に飛翔しても、組織の意識は商店のまま。兆円単位の売上高を計上するにもかかわらず、ダイエー、ヨーカ堂には上司の指示に盲従する部下だけが増えていました。カリスマ経営が避けられない「盲従の罠」です。
鈴木氏から見れば、コンビニから得られるデータは、カリスマ経営者の思いつきや感情を排除します。明日の商品構成・開発を教える売り場の数字に従えば、成功は約束されているのですから。
残念ながら、データはすべてを教えてくれませんでした。「盲従の罠」が待ち構えていました。売り場の数字は絶対であるものの、決断する人間は常に鈴木氏だけ。異論、反論を挟む人物は皆無。指示に盲従する部下に囲まれている自分自身の危機をデータは告げてくれません。盲従に耐えられなくなった部下たちはついに反乱、2016年に鈴木氏を追放します。
鈴木氏がゼロから築き上げた「セブンイレブン」は、盲従しか知らない組織に経営できるわけがありません。経営再建は試行錯誤を繰り返しながら、遅々と進んでいません。中内、伊藤両氏が創業したスーパーは今や、他の資本に移って存続しています。鈴木氏の「セブンイレブン」も足元がふらふら。「開いてて良かった!」とひと息つく瞬間はあるのでしょうか。
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鈴木敏文氏が2026年5月18日、93歳で死去しました。ご冥福をお祈りします。

