
稀代の経営者・永守重信 日本電産で時代を創り、ニデックで次代を失う
ニデック(旧日本電産)の創業者・永守重信氏が名誉会長を辞任しました。「ニデックという私の物語は終わり、それに続いて、次世代がニデックの新しい物語を紡ぐ時代」との声明を発表し、経営から名実ともに退きました。1973年、京都市で小型モーターを開発・生産する日本電産を創業。50年間、M&Aを重ねながら2兆円を超える世界企業に躍進した経営手腕は昭和、平成を通じて稀代の経営者として高く評価されてきました。
時代錯誤に気づかず
しかし、2023年、ニデックに社名変更してから経営はギクシャク。不適切な会計処理の発覚で、過去の輝かしい栄光は消え失せました。独創的な技術とM&Aを両輪にした日本電産は日本の製造業にとって新たな時代を創りましたが、ニデック社名変更した令和では絶対服従を求める独裁的な経営が大きな批判を浴び、次代を失うことに。稀代な経営者、とりわけ創業者が偉大であるほど経営を継承する難しさを次代の教訓として残しました。
ニデックは2月末にも第三者委員会に託した不適切会計の実態を公表する方向です。2025年6月に明らかになったイタリア子会社の関税未払い問題を発端に国内外で繰り広げられた不適切な会計処理を解明し、見せかけの高収益企業をいかに仕立て上げたかの実相がわかるはずです。
背景には永守氏の「NO」を許さず経営目標の完全達成を求める横暴ともいえる経営手法がありました。長時間労働、深夜に及ぶ会議など昭和の時代なら、当たり前と受け止められていましたが、令和は労働関係法の改正などによって労働時間の厳守、ハラスメント厳禁が会社の常識。にもかかわらず、永守氏は創業時代からの理念を貫き通し、2030年に10兆円企業へ飛躍する経営目標へ邁進します。環境変化を読めないカリスマ経営者の時代錯誤が溺愛するニデックを窮地に追い込んだのです。
永守氏が去れば息を吹き返すのか
ニデックは永守氏が完全に身を引くことで、息を吹き返すのでしょうか。永守氏は「ニデックは永久に不滅」「誠実で信頼性ある真のグローバル企業によみがえることを確信している」と唱えています。また、ニデックを自縄自縛にしてしまった永守氏が去ったことで経営の制約が消え、再生のきっかけを掴むはずとの声もあります。
残念ながら、目の前には厳しい経営環境が待ち構えています。
東京証券取引所は2025年10月、ニデックを内部管理体制などの改善を求める特別注意銘柄に指定。第三者委員会の調査結果や対応策などによっては、株式上場を取り消される可能性があります。かつて東証を代表するスター企業が姿を消すことは、日本の株式市場の信頼性を傷つけるとともにニデックの信用も大きく損失します。
事業の将来性にも不安はあります。小型モーターを軸にしたニデックの技術は今も世界的な競争力を持っていますが、次代を担う新規事業の成長が見込めません。ここ10年間、注力した電気自動車(EV)向け駆動系システムは大きく期待した中国市場で惨敗を喫しており、EV市場そのものが足踏み状態です。
ニデックの成長力の源であるM&Aも、永守氏の優れた目利きと決断力があったからこそ成功し続けました。小型モーター、EV駆動系システムに続く経営の柱として想定した工作機械は牧野フライス製作所の買収失敗によって頓挫したまま。
M&Aの餌食になるかも
後を託された岸田光哉社長はソニー時代にモバイル事業の建て直しなど豊富な実績を持つ実力経営者です。ただ、2022年にソニーから移り、2024年6月に社長就任して2年も経ていません。永守氏の号令一下で右に左に働いてきた会社組織を一度解き放ち、岸田社長が求心力を握って経営再建するには時間が必要です。
経営再建の道筋が見えなければ、国内外の投資ファンドが手を突っ込んでくるのは間違いありません。M&Aで2兆円企業にのし上がったニデックが、今度は企業買収の餌食になるかもしれません。
その厳しい現実を創業者の永守氏は十分に知っています。現在、ニデックの株式8・3%を個人で握る筆頭株主だけに、投資ファンドなどからM&Aを仕掛けられたら、どう対応するのか。「ニデックは永久不滅」というほど愛しているのですから、M&Aが過熱すれば表舞台に再び登場するでしょう。
「この世はすべてやる気が一番 年中夢中 可能性は無限!!」。居酒屋のトイレで出会った色紙です。永守氏ら稀代の経営者の思いを揮毫したのではないかと勘違いして、スマホで撮った一枚です。その時はもちろん、奮い立ちました。

