
フェラリーのEV騒動が羨ましい ホンダ・ソニー「アフィーラ」も嵐を呼んで欲しかった
フェラリーが開発した初めての電気自動車(EV)「ルーチェ」。どんなEVが誕生するのか。世界のモーターファンが大きな期待を持って注目していたせいか、想像を超えた「フェラーリ」の誕生に多くの賛否が飛び交っています。
デザインは破壊的
デザインは破壊的です。基本コンセプトは4ドア、5シート。車体は外枠と内枠に分かれる二重構造。ゆで卵の黄身を収める内枠にドライバーや乗員の5人がゆったり座る空間が設けられています。近未来映画に登場する空飛ぶモビリティがそのまま目の前に現れたかのようです。ボディーカラーは淡いブルー。フェラーリ定番の燃えるように赤いイタリアンレッドは無し。カーマニアなら「これって、フェラーリ?」「やっちゃったなあ」と吐息を漏らすでしょう。
フェラーリといえば、車体は鏃(やじり)のように空気を切り裂く鋭いデザインがアイデンティティ。だから2人乗り。5人も乗るなんて考えられない。試乗した経験からいえば、運転中に友人とおしゃべりするなんて勿体無い、ハンドルとシフト操作が楽しいうえ、魔女が叫ぶかのような高音を奏でる大排気量エンジンにエクスターを覚えます。乗ったら離れられない。それがフェラーリ。
ところが、EV「ルーチェ」は「フェラーリ」が放つオーラなど皆無。一見、鈍重にすら映ります。ゆったりした車内空間を設け、5人でおしゃべりしたり、音楽や映画、ゲームを楽しんだり。現在のフェラーリと真逆の世界。
あえて既成概念を捨てる
決して意図せざる失敗作ではありません。フェラリーが創業以来、魔性のエンジン音と加速力で築き上げてきた価値観とイメージを一度捨て、これからのEV時代に向け新たな創造に挑む宣言していたからです。
なにしろ、デザイナーは、ジョナサン・アイブ。アップル時代、初代iMacでオーストラリアの美しい海岸ボンダイブルーを再現した半透明な筐体をデザインし、パソコンは無骨な箱型という固定観念を打ち砕きます。iMacは情報機器の殻を破り、持ち主のライフスタイルを彩るインテリアになったのです。アイブスはその後、iPod、iPhoneなど携帯端末のデザインでも世界の潮流をリードしました。
独立後に手がけたフェラーリ「ルーチェ」のデザインが自動車ファンから怨嗟の声が出るのは承知していたはずです。フェラーリとして初めて後部座席に3人掛けを設置したことで、すでに高級スポーツカーの世界から決別したことがわかります。ボディカラーも黒、赤、青、黄などに塗り分けることができるそうです。価格は1億円以上ですから、おもちゃのように遊ぶにはちょっと高価ですが、家族みんなで移動体験を楽しむ時間を創出するガジェットとして使い勝手の良いEVをめざしのではないでしょうか。
EVと何かの議論が欲しい
羨ましいのは、「ルーチェ」誕生によって「フェラーリとは何か」「フェラーリのEVとはどうあるべきなのか」の議論が巻き起こったことです。これまで築き上げた高級スポーツカーの歴史に縛られることなく、電気モーターとバッテリーをコア部品に使ってフェラーリは次代に向けてどう転生するのかを楽しんでいるかのようです。急いで答を出すことは無用。探る過程が遊びなのです。
日本のEV開発で今、最も必要としていることです。中国が世界のEV市場を席巻する一方、ホンダが進めた戦略が頓挫するなど日本の立ち遅れはもう説明不要でしょう。「日本車メーカーが創るEVはどんなものになるのか」といった議論はほとんど聞こえてきません。
無いものねだりをしたくはありませんが、ホンダとソニーが開発したEV「アフィーラ」が世に送り出されていれば、議論に火がついていたはずです。自動車メーカーと電機メーカーが化学反応して創り上げたEVはどう評価されたのか。最初から完璧を求めるわけがありませんが、多くのファンの批判を浴びて次に向けて進化したはず。
「トヨタ自動車なら、日産自動車ならどんなEVを作れるのか」「スズキやダイハツ工業はもっとおもしろいEVを創ることができるだろう」。いろんな声が日本のEVを育て、世界で飛び回る力を創出する源になります。研究室に閉じこもってEVを開発しても、つまらないでしょう。それにしても、フェラーリが羨ましい。
◆ 写真はフェラーリのお決まりのポーズ

