
リニア中央新幹線 整備新幹線、青函トンネルを倣う「平成のバカ査定」と呼ばれないためにも
JR東海が計画するリニア中央新幹線がようやく大きな難所をクリアしました。静岡工区(8・9キロ)の環境問題を精査していた静岡県の専門部会は3月26日、JR東海が提示した水資源など28項目にわたる環境対策案を了承。川勝・前知事が10年前から工事を差し留める理由に上げていた大井川の水資源枯渇などの懸案は解消され、静岡工区の年内着工に向けて前進します。
最大の難関はトンネル工事
前進は間違いはないでしょう。ただ、残念ながら計画が大きく前進したとはいえません。まだまだ難関は多く、静岡県の了承はその一つに過ぎないからです。
先行きを最も不透明にしているのはトンネル工事。全体の90%を占めるトンネル工事は果たして貫通するのか。貫通するとしても、いつ完成するのか。
あらかじめ承知していただきたいのは、リニアモーターそのものに反対しているわけではありません。私は1989年からリニアモーターを取材し、その夢物語を新聞連載。中国のリニアモーターカーにも乗車しています。なんといっても、リニアモーターの実験線の誘致競争の際、当時の政界のドン、金丸信、運輸族のドン、三塚博の両氏を行き来して山梨県決定で調整した経験もあります。
以来、JR東海の葛西敬之会長が昵懇の安倍晋三首相とリニア中央新幹線を国家プロジェクトに格上げするなどリニア狂想曲を繰り広げた舞台を客席から眺めています。一人の観客として冷静に舞台を見上げると、どこかで脚本を練り直す時が必要があると感じます。
10キロ以上が8本も
リニア中央新幹線は、品川駅と名古屋駅との285・6キロを時速500キロで走行し、最速40分で結ぶ「シン夢の超特急」構想です。超電動磁石で車体を浮かし、弾丸のように飛ばす原理ですから、路線はあくまでも直線が理想。
ライフル銃を思い浮かべてください。品川ー名古屋を定規で線を引いたように結ぶわけですが、経路には南アルプスや大井川など壮大な自然環境が待ち構えており、直線を引くには地下を走るトンネル工事が欠かせません。
トンネル区間は路線285・6キロのうち256・6キロと全体の90%を占めます。最長は品川駅と神奈川県駅の第一首都圏トンネルの36・9キロで、次いで第一中京圏トンネルの36・9キロと30キロ以上が2本。このほかにも南アルプスと中央アルプスの2トンネルが20キロ以上と続き、全体で10キロ以上のトンネルが8本もあります。
いずれのトンネル工事も過去に比べようのないほどの難工事です。2010年ごろ、JR東海が着工する前にお会いしたトンネル専門のゼネコンの社長は明言していました。「誰も経験がない30キロ、20キロを超えるトンネルを直線に仕上げる工事は極めて高度な技術が求められる」「予想外の事態がかならず発生するだろう。受注しても成功させる自信はない」。
あれからもう10年以上も過ぎているので、技術進歩によって「不可能」は「可能に変わった」と思いたいですが、楽観はできません。
実際、未着工の静岡工区以外の他の地域では崩落事故や自然破壊によって遅れています。すでに開業計画は2027年から早くても2036年以降にずれ込むと発表していますが、この10年間だけでも難航しているわけですから、さらに遅れると見て良いでしょう。
品川ー大阪を結ぶ計画もあります。現在は当初の2045年を前倒しして37年を目標にしています。現在の計画の遅れを想定すれば、品川ー名古屋ー大阪が完遂するのは20年後ぐらいでしょうか。
交通インフラも高速通信の進化で大きく変わる
正直、20年後の近未来社会を支える交通体系を想像すらできません。光を使った超高速通信、量子コンピュータを駆使する人工知能が実用化されていたとしたら、リニア中央新幹線が背負う役割はどうなるのでしょうか。ビジネス出張などは不要になり、個人の移動は減っているかもしれません。
猛烈なスピードで進む人口減も逆風です。時速500キロを体感したいという需要はかならずあると思いますが、ほとんどトンネルを走るリニア中央新幹線からは富士山を眺める余裕がないので、急いで移動する必要がない観光客は乗るのでしょうか。東海道新幹線の代わる高速交通としての役割は失せている気がします。
リニア中央新幹線に整備新幹線の二の舞を演じて欲しくありません。かつて大蔵省の主計官が整備新幹線を「昭和の三大バカ査定」と呼ぶ戦艦大和、伊勢湾干拓、青函トンネルに並ぶと批判したことがあります。この主計官には予算編成で忙しい年末にカラオケ居酒屋で偶然会ったことがあります。東京・六本木で飲んで歌った余勢で予算を査定するバイタリティに驚きました。それだけに口調は荒いものの、趣旨には納得します。
当時の予算編成の目玉となっていた整備新幹線に対する批判を要約しました。
航空機時代の到来を見極められずに、大艦巨砲主義を固守し、大和・武蔵を建造したように、いまから新幹線を造っても時代遅れ。整備新幹線計画実施を大蔵省として認めれば他を押しのけて「三大バカ査定」の一つに数えられるだろう。(中略)新幹線は完成まで十年か二十年かかる。どうせチンタラ造るんだろうから、できた時にはすでに前時代の遺物になっている。
リニア中央新幹線は同じ二の舞を演じない!。誰が断言できるのでしょうか。

