
日本製鉄をAIで占う 電炉・グリーンのハイブリッド戦略で脱炭素、世界最強を奪還
日本製鉄は世界最強の座を奪還できるのでしょうか。1980年代まで世界最大の鉄鋼メーカーでしたが、今や中国や欧州に抜かれ、市場の価格主導権も奪われています。2025年6月、約2兆円で完全子会社化した米USスチールの買収は第1歩にすぎません。ただ、粗鋼生産量で世界トップの座に返り咲くのが目的ではありません。地球温暖化を抑制するカーボンニュートラル時代に求められる鉄鋼産業の脱炭素を実現することです。
鉄鋼の脱炭素は避けられない
鉄鋼産業は、このままでは生き残れません。ロシアのウクライナ侵攻、米国・イスラエルのイラン侵撃など激動する世界情勢に目を奪われ、関心が薄れてしまっていますが、21世紀は地球温暖化の招くCO2排出削減するカーボンニュートラルを避けて通れません。鉄鋼はCO2排出量で世界の10%程度と最も多く、産業別でみれば25%も占めます。自動車、航空、エネルギーと並んで、地球温暖化の元凶と目されているのですから。
日鉄は脱炭素に挑戦せざるをえないのです。手垢がついた言い方ですが、20世紀の栄光を捨て、21世紀に相応しい革新を体得しなければ、量的拡大に注力する中国勢などに取り残されるだけ。
復活のカギは「電炉超え」と「グリーンスチール」を融合するハイブリッド戦略の成否にあります。
「電炉超え」とは高炉最大手の日鉄が高炉を捨て、東京製鉄などの電炉専業を追い抜くことではありません。些事ですが、鉄鋼産業の序列でいえば電炉は高炉の下位。かつての誇り高き「新日鉄」を知っているだけに、電炉で留まるわけがありません。専業を圧倒する体制を築き上げ、電炉業界の主導権を握る腹です。
日鉄は2025年、国内3拠点で合計約8700億円を投じる電炉への転換投資を決定しました。九州製鉄所 八幡地区は 高炉を廃止し、大型電炉1基を新設。瀬戸内製鉄所 広畑地区と山口製鉄所 光地区は既存の電炉を増強します。いずれも2029年をめどに本格稼働します。買収した米USスチールも大型電炉への投資を加速させています。
電炉は鉄スクラップを電気で溶かすため、CO2排出量を高炉の約4分の1に抑えられます。電炉は不純物が混じりやすく自動車の外板などの「高級鋼」を作るのは難しいとされてきましたが、日鉄は大型電炉で高級鋼を製造する技術開発を進めています。
電炉転身したといっても、課題は多い
日米で電炉生産を整えたからといって、成功が決まったわけではありません。電炉転換は、原料を鉄鉱石から鉄スクラップに変えることを意味します。安価な電力、原料の良質な鉄スクラップを安定して調達しなければ、生産コストは上昇、価格競争力を維持できません。スクラップは不純物の管理が難しく、質の良いスクラップの確保が「高級鋼」製造の成否を分けます。USスチール買収も、北米の良質のスクラップ資源や電炉ノウハウを取り込むこことを視野に入れていました。
「グリーンスチール」はどうでしょうか。従来の鉄鋼製法よりCO2を大幅に削減した鉄鋼材料のことですが、電炉だけでは生産能力が不足で既存の高炉に新たな技術を吹き込む必要があります。例えば「高炉水素還元」。主力の高炉では従来のコークスの代わりに水素を使って還元するので、CO2の代わりに水が排出されます。さらに高炉を使わずに水素と反応させる直接還元鉄を生産する「直接還元」技術もあります。
日鉄が挑む脱炭素は成功するのか。人工知能(AI)を使って整理してもらい、その目算を占ってみました。もちろん、日鉄が実際に成功するかどうかは、経営の努力次第。でも、日本を代表する企業ですし、世界の鉄鋼産業が変わるかどうかの試金石でもあります。AIの力試しにちょうど良い教材です。
AIは目の前の日鉄から「資源循環型・低炭素のエネルギーマネジメント企業」へと変貌しようとしている姿が見えるといいます。3点のポイントを指摘しました。
1. 「排出量」から「排出原単位(効率)」への評価シフト
電炉転換により「鉄1トン生産する際に排出するCO2(排出原単位)」が劇的に下がります。鉄鋼株はCO2を出すので投資対象外とされる傾向がありましたが、「排出量が多い=悪」から「削減ポテンシャル=善」への転換 すれば、投資判断は変わります。売上高当たりの排出量(炭素生産性)を指標に加えれば、日鉄に投射された負のイメージは一掃され、低利での資金調達が可能になります。
2. スクラップという「都市鉱山」の争奪戦
AIは「ここが最も現実と符合させるのが難しい」とみています。世界中で電炉シフトが広がれば、原料の鉄スクラップは跳ね上がります。しかも、日鉄は電炉で高級鋼を生産するためには、不純物が少ない一級品のスクラップが必要です。日鉄が今後、スクラップ回収会社と提携して調達網をどう築き上げるのか。時には新たな企業買収もあるとみています。USスチールの買収については米国は電気代が安く、良質なスクラップが手に入りやすいと評価しています。日米2極にリスク分散していることも「将来の安定性」に寄与したと判断しました。
3. グリーンスチールのプレミアム化
脱炭素プロセスで作られたグリーンスチールは、従来の鉄より高く売れる「環境価値」を持つようになります。自動車メーカーは「脱炭素の車」を販売するため、鋼材のCO2削減が急務です。日鉄は脱炭素を達成した「環境価値」を鋼材価格に上乗せする仕組みを作り上げようとしています。高炉から電炉への転換でコスト増はありますが、環境価値を上乗せしたグリーンスチールのプレミアム分を利益にできれば、全体の営業利益率はむしろ向上するとみています。
結論は圧倒的な競争力を生む可能性
AIの結論は以下の通りです。
日本製鉄の将来は「重厚長大な装置産業」から「高度な技術と資源循環を操るテック企業」への脱皮にかかっています。時系列でみると、短中期的には スクラップを活用した電炉で足元の排出量を着実に減らす一方、長期的には 究極の脱炭素である水素還元製鉄(高炉の進化)でスクラップ不足を補い、真のゼロエミッションを目指しています。日本製鉄は、国内他社が「今の設備をどう延命するか」を模索する中で、いち早く「設備そのものを入れ替える(スクラップ・アンド・ビルド)」という外科手術を選びました。これは短期的には利益を圧迫しますが、カーボンニュートラルが必須となる2030年以降、圧倒的なコスト競争力(炭素税の低さ)を生む可能性があります。
AI占いはどうでしたか。初めて試みてみましたが、とても興味深い視点でした。

