65歳から始めたサイト制作 「メアリー・ポピンズ」が教えてくれた素直に文章を書く楽しさ

 映画「ウォルト・ディズニーの約束」。何度観ても感動してしまい、60年前の「メアリー・ポピンズ」を読み直すことにしました。

 映画は米ウォルト・ディズニーが娘が愛読している「メアリー・ポピンズ」を映画化するため、原作者パメラ・トラヴァースが繰り出す無理難題を受け止めながら、ミュージカル映画を製作した実話が題材です。

60年ぶりに読み直す

 原作の風にのってきたメアリー・ポピンズ」は小学生の頃に愛読しました。冒頭、唐突に登場するメアリー・ポピンズに「この人はどんな人なのか」と訳がわからないまま読み続けると、「笑いガス」など日常の出来事を面白おかしく、ページを捲るたびに夢中になる不思議な物語に頭の中は「???」。でも読み終わると、あの不思議な世界にもう一度戻りたくなる。そんな思い出が今も鮮明に残っています。

 映画「メリー・ポピンズ」も母に頼んで映画館で一緒に観ました。ジュリー・アンドリュースが歌う「チム・チム・チェリー」「スパカリ・・・」、アニメと踊る俳優の演技が耳と目に焼き付きました。以来、煙突掃除人は特別な人たちというイメージが消えず、ホント偶然ですが20年以上も前に購入した戸建て住宅は「チムニー(煙突)」をテーマに設計されていました。

 本棚にある「「風にのってきたメアリー・ポピンズ」を久しぶりに開きました。岩波書店が1963年11月に出版し、林容吉さんが翻訳しました。多少の劣化はありますが、ぜんぜん気になりません。児童文学の本として出版しているので、漢字は少なくひらがな表記が多いですが、老眼の目にはやさしく読みやすさにホッとする自分がいました。

「児童文学は読みやすさに最も神経を尖らせているんだ」と痛感したわけですが、自分が読んでいる文章は原作者のトラバースさんの英文ではなく、翻訳した林さんの文章です。林さんは原作者の英文をできるだけ日本語に再現しようと努力したと思いますが、「メアリー・ポピンズ」って面白いなあと感動している自分は、実は翻訳家の文章に魅了され、その筆さばきを文章の見本として覚えていました。

漢字は少なく、ひらがなでわかりやすく

 実は、小学生の頃から読む本は英文学など翻訳モノがほとんど。「メアリー・ポピンズ」はじめ海外の現実世界とかけ離れたファンタジーの世界にずっとハマっていました。なぜか、日本文学は避けていました。日本の作家は真面目すぎる性格を反映してか、暗くてジメジメしてどうも共感しません。開き直るわけではありませんが、名文家になろうと考えたこともありません。文章は自分の頭の中に「こんな面白いことがある」と浮かんだことをできるだけわかりやすく伝える道具と今も考えています。

 腑に落ちたことがもう一つありました。過去、何度も挑戦しても跳ね返されてきた夏目漱石や大江健三郎が読み切れない理由がわかりました。文章が緻密すぎて、私には重すぎて一緒に伴走できないのです。「吾輩は猫である」を読んでも、全然笑えません。

 翻訳家の文章が軽いという意味ではありません。ひらがなをふんだんに使いながら、原作者が描く「楽しさ」を伝える文章力が日本文学と異なるのでしょう。

 そういえば新聞記者時代、デスクから「漢字は少なく、ひらがなを多く使って原稿を書け」とアドバイスされていたことを思い出しました。小難しい経済を中心にした新聞だったこともあり、ただでさえ重苦しいニュースや囲みの記事をいかに読んでもらい、理解してもらうかに腐心していました。新聞紙を開き、紙面全体を見渡すと、ひらがなが多い記事は目に止まり、まずはこちらから読もうと思ったはずです。

日常生活の出来事をいかに楽しく伝える

「メアリー・ポピンズ」を読み直しながら、「翻訳家の林さんの背中を追いかけていたのかもしれない」と気づきました。原作者のトラヴァースは日常生活の当たり前の出来事をまるで別世界で起こっている不思議な出来事のように描き直し、「生きているって、楽しい」を伝えています。林さんはその思いに沿うように、わかりやすい日本語で文章にしてくれました。

 目の前の出来事、ふと思ったことをどう伝えるのか。サイトに掲載する文章を書いている時、よく悩みますが、素直に自分自身の思いを書けば、「楽しさ」は伝わるはず。傘を広げ、風に乗るメアリー・ポピンズのような気分です。

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