自由の女神 米国

強欲が支配する産業と社会 技術革新はAI任せ、欲しいものはミサイル攻撃

十九世紀の一般的な合意により権力は、見方によって企業家とも、あるいは大金持ちの悪人とも見られる人々に移行してしまった。上院は金持の実業家クラブと化していたのである。

 米経済学者、ガルブレイスが1967年に発表した「新しい産業国家」(河出書房、都留重人監訳)の第5章「資本と支配力」の一部を引用しました。

 ガルブレイスはジャーナリストのような視点で大胆に経済、社会を切り取り、現代そして近未来への警鐘を鳴らし、多くの読者を獲得しました。実証データなど科学的な手法が乏しいので、経済学と呼んで良いのかといった批判は消えませんが、「断絶の時代」で知識社会の到来を予見し、プログラマーなど知識技能者が産業社会を支える重要な存在になると指摘した慧眼には感服します。

現代は19世紀に逆行

 「新しい産業国家」では、19世紀の悪人とも見られる資本家が強欲に駆られて牛耳る時代は終わり、経営者、科学者、技術者、専門家など組織的集団(テクノストラクチュア)が実質的に支配している新しい時代が到来していると主張しました。

 誤解しちゃダメです。悪人が消え、善人が増えるというわけではありません。外見上は悪人に見えませんが、企業利益を拡大する手法はより巧妙に”進化”。

 広告などを活用して消費者の欲望や需要をコントロールし、企業にとって収益を最大化できる生産や価格を操作するのです。しかも、巨大企業と政府(国家)はより密接に結びつき、軍事費や公共事業などを通じて経済の安定や技術開発を支え合う社会へ移行していると解析しています。

 ガルブレイスの予見は大筋当たりと言って良いでしょう。現代の米国は巨大企業が国家権力と密接な関係を築き、技術革新でも少数の天才的な技術者が主導する人工知能(AI)によるイノベーションが加速しています。日本経済が世界から取り残されているのは、ガルブレイスが予見した方程式を読み取れなかったからです。

 ところが、今、目の前で進行する21世の世界経済は「新しい産業国家」の進化形ではなく、ガルブレイスが指摘した19世紀の産業国家への逆行です

政治は横暴、技術革新は暴走

 国家権力は過去の戦争から得た教訓を忘れたかのように軍事力を前面に「横暴な論理」を振り回しています。企業を経営するテクノストラクチャーは人間の可能性よりもAIに依存し、今では「AIの暴走」を恐れ始めています。

 「横暴な論理」「AIの暴走」。本来なら許されないことです。それでも許してしまうのはなぜか。いずれも「強欲」に縛られた政治家、企業経営者が自ら暴走を許してしまっています。残念ながら、21世紀後半の世界は、強欲が果たす破壊力といかに直面することになるのです。

 現代の強欲の象徴はトランプ大統領。誰も異論はないはず。「グリーンランドが欲しい」「ガザ地区から住民は出ていき、米国が再開発する」。本業の不動産会社らしく土地への強い執着心を露わにします。

 政治手法は横暴がスーツと赤いネクタイを着ているのかと見紛います。第2次政権が始まった2025年春、貿易相手国に対して高率関税を設定。長年積み重ねてきた関税の歴史を無視する身勝手な関税を世界経済は大きく動揺しました。課税を課す理由は「米国の権益を守る」と唱えていますが、一つ一つの論理を読み解くのは無理。意味不明だからです。

 外交も理解不能。2026年2月にはイランにミサイル攻撃。短期間で終えると宣言しながら、秋になっても収束の見通しはつきません。イランが石油の要所、ホルムズ海峡を閉鎖したら、ホルムズ海峡は米国が管理する代わりに交通料を払えときます。勝手に戦争を仕掛けておいて、何の成果もないまま金品を要求する。日本ではやくざのみかじめ料と呼びます。

「強欲」を制御できるか

 米国経済も役者の顔ぶれが変わりますが、少数の人間の「強欲」に振り回されています。「新しい産業国家」の予見通り、グーグル、メタ、アップルなど高度な専門家集団が主導する企業が世界に大きな影響を及ぼしていますが、新たに世界の産業社会を根底から変革しているのはAI。オープンAIやアンソロピックなどの開発企業、半導体のエヌビディアがAIの急速な進化がもたらすカギを握っています。

 ところが、技術革新の先導者であるオープンAI、アンソロピックの経営者は「開発の制御不能のリスク」や「AIが自律的にサイバー攻撃する脅威」について警鐘を鳴らしています。「強欲」がもたらす恐怖の落とし穴に気づいたのでしょう。

 AIの落とし穴は以前から指摘されていました。シンギュラリティ。未来学者のカーツワイルは人工知能が自らより賢いAIを次々と生み出し、人間の知性を超える転換点が2045年ごろに訪れていると予測していました。

 皮肉にもAIの開発スピードを違い、AIの暴走を制御する体制はこれからです。国際的な管理体制、とりわけ倫理観を逸脱しないよう技術的なセーフガードをAIの撃破も想定して多層的に組み込む必要があります。解き放たれた「強欲」は止められません。

 21世紀後半も世界経済が持続可能な産業社会を継承しようとするなら、「強欲」を制御するしかありません。果たして可能でしょうか。

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