
豊田自動織機のTOB 未来投資を捨て、創業家死守に6兆円を費やす
トヨタグループの祖業企業である豊田自動織機のTOB(株式公開買い付け)が成立しました。トヨタ自動車などグループ企業は議決権比率で63・6%に相当する1億9108万株の応募を集め、成立の下限とした42%を上回りました。大株主の米投資ファンドの価格引き上げ要求、市場全体の株高も加わって豊田織機の株価は上昇。TOB価格は当初の1株1万8800円から2万600円に。この結果、買収総額は見込みより1・2兆円多い5・9兆円に増え、国内企業のTOBとして過去最大に膨らました。
ホンダの損失処理の2倍以上
6兆円。日本のGDP662兆円の1%近い巨額なお金です。自動車業界で比較すれば、ホンダがこれから2年間かけて損失処理する2兆5000億円の2倍以上。
ホンダは電気自動車(EV)戦略の失敗で2026年3月期で最大6900億円の赤字を計上し、来期を含めると総額2兆5000億円を損失処理する窮地に立っています。手持ち資金4兆円あるので、2兆5000億円を損失処理しても財政基盤は揺るがないと説明していますが、仮に6兆円の「へそくり」があれば、損失処理を迫られたEV戦略も軌道修正せずに余裕を持って継続できたかもしれません。
そんな6兆円をトヨタは祖業企業である豊田自動織機を守るために投じました。TOB成立によって豊田自動織機は自動運転などトヨタグループの成長投資をリードできるとしていますが、本音は全く別。海外投資ファンドなどから株式取引や取締役構成などについて口出しされることを排除するのが目的です。トヨタはじめデンソー、アイシンなど有力グループの大株主ですから、豊田自動織機の経営に揺さぶりをかけてトヨタグループ全体に干渉する事態を絶対に避けたかったからです。
トヨタ自動車発祥の地である祖業とはいえ、豊田自動織機はトヨタ車の生産、産業用エンジン、フォークリフト生産などが本業。とてもグループ全体を引き上げる技術力や指導力はありません。グループ全体の成長を考えたら、デンソーにTOBをかけた方が賢明です。
成長戦略ならデンソーTOBが賢明
もっとも、トヨタにとって6兆円の重みは死活問題に直面するホンダと違います。世界でも最も裕福な自動車メーカーですから、グループ企業、メガバンクと協力すれば6兆円近い資金をTOBに投資しても首が回らない窮地に追い込まれる心配は全くありません。
今回のTOBの経緯を見てもわかります。2025年6月にTOBを発表しましたが、豊田自動織機の株式7%超を保有する米エリオット・インベストメント・マネジメントが価格引き上げを求めて反対。東証株式市場が好調に上昇する流れも加わり、豊田自動織機の株価もTOB価格1万8800円を上回る水準で推移。成立するかどうか不透明になったとの見方も出ていました。
トヨタは3月、TOB価格を1株1万8800円から2万600円へ引き上げます。エリオットは応募の意向に転じ、成立にめどをつけました。残る株式も取得して豊田自動織機は5月の臨時株主総会を経て、6月ごろには上場廃止する見通しです。
豊田自動織機のTOBを眺めていると、「金持ち喧嘩せず」という諺を思い出します。麻雀を遊んでいる時によく聴く必勝ルールです。ゲーム途中で小手先の争いしても無意味。勝負を決める麻雀の点棒に余裕があるなら、リスクを最小限に切り抜けて最後に勝つのが賢い。
創業家0・2%でも絶大な権力
トヨタの創業家はトヨタ自動車の株式全体の0・2%足らず。にもかかわらず、豊田章男会長ら創業家の威光は絶大です。直近の社長交代を思い出してください。佐藤恒治社長はわずか3年で交代、豊田会長の秘書を長年務めた最側近の近健太氏が就任します。豊田会長の思うままに世界一の自動車メーカーであるトヨタの経営が左右される様について批判の声が高まっていますが、外野席の雑音は聞こえないかのように決断し、実行する力を持っているのです。
豊田自動織機の位置付けも同じです。米投資ファンドなどからの干渉を排除するため、6兆円を投じて株式上場を廃止する。トヨタグループは日本の産業界のトップとして公共性を背負っているはずですが、非公開化によってグループ全体を私物化するのです。
しかも、6兆円を投じれば、足踏み状態にあるEV市場を打開する新技術やインフラ構築を確実に加速できます。トヨタはすでにEV投資に力を入れていると説明するでしょうが、6兆円の投資が加われば中国に押されっぱなしのEVの覇権争いの構図は大きく変わります。
豊田自動織機のTOBはトヨタグループのみならず日本の成長戦略の歪みを物語っているのです。

