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ブリヂストン「タイヤフリー」が問うパンクしない経営 脱輪せず進化し続けるか

 ブリヂストンがパンクしないタイヤ「エアーフリー」を実用化しました。2008年の開発開始から試作と走行実験を重ねて18年間、2026年7月に滋賀県東近江市で運行する自動運転サービスに初めて採用されました。ゴルフカート型車両で往復5キロ弱の山間部を運行するサービスで、交通機関がない中山間地域の住民の足となります。

中山間地の交通を支えるタイヤ

 一般車両向けに販売する予定はありません。でも、信頼と使い勝手が定着すれば近未来のモビリティ社会を支える両輪として活躍するはず。タイヤメーカーの経営そのものを変革する可能性を感じます。

 エアフリーの構造は、バネの仕組みを応用しています。空気の代わりに耐久性のある特殊なプラスチック素材のスポークを網目状、波状に張り巡らして走行中の衝撃を吸収します。走行中の運転で荷重が偏っても乗り心地や走行性能が大きく損なわれることがないそうです。

 現物を拝見しています。8ヶ月前の2025年10月末、ジャパンモビリティーのブリヂストンコーナーで展示されていました。タイヤは自動車の走行性能を引き出す重要な技術ですが、エンジンやシャシーに比べると陰の存在。タイヤの先端技術に興味を持つ人は多くありません。それでもエアフリーの実用化に挑む研究者が熱心に話す姿にちょっと感動しました。

 なぜ?って、エアフリーが次世代タイヤとして走り始めたら、ブリヂストンはたいへん。売上高のほとんどを稼ぐ空気入りタイヤが全否定されてしまいます。東近江市で採用されたエアフリーを一般の自動車向けに販売しないと公表するのも道理です。それでも、近未来タイヤの可能性を追求するブリヂストンの懐の深さに敬服します。

 実はエアフリー実用化のインパクトは想像以上に広がると考えています。「パンクしないタイヤ」。車を運転する人間なら、すぐにでも欲しいタイヤです。パンクしても一定距離を走る「ランフラットタイヤ」などが出回っていますが、パンクの恐怖は完全には消えません。

 まして、これから無人の自動運転の時代が始まります。一見、自動運転は人工知能(AI)などデジタル技術を駆使した最先端のモビリティ技術の満載と考えられますが、機能をフルに発揮するためには「パンクしないタイヤ」が必須。

 理由は簡単。どんな優秀なAIでもパンクによるタイヤ交換はできません。今流行りの言葉でいえば、フィジカルAIなら可能かもしれませんが、タイヤ交換できるフィジカルAIを搭載したモビリティは想像できません。それじゃ乗客が交換すればと思いますが、自動運転する車内でゲームや映画を楽しみ、友人や家族らで飲食していたら、人間の手があってもお手上げでしょう。

 日本の地方交通機関にとってはなおさらです。東近江市にかぎらずバスなどの経営は厳しく、運転手不足も深刻です。無人で安全な自動運転の交通システムは全国の市町村が普及せざるを得ません。できるだけ事故や故障を抑えるためにもパンクしないタイヤの需要は確実に増えるはずです。

 タイヤメーカーが望むと望まないにかかわらず、自動運転の時代はパンクしないタイヤ、言い換えればタイヤフリーの時代でもあるのです。この技術革新はブリヂストンにとって大きなチャンスではないでしょうか。

 タイヤの基本原理は5000年前のメソポタミア文明で誕生して以来、変わっていません。ダンロップが19世紀に空気入りゴムタイヤを実用化してから飛躍的に性能が高まり、走行性能、雪道、凍結路など用途に応じてゴム、補強剤などの配合を変え、経験と最先端技術の塊ですが、基本は車輪がゴロゴロ回転するだけ。

 だからなのでしょうか、参入障壁が高い。世界のタイヤメーカーは19世紀後半に創業したダンロップ、グッドイヤー、ミシュランが今なお健在で、1930年創業のブリヂストンは1980年代まで日本国内の市場に閉じ込められていたも同然でした。

パンク寸前に追い込まれる

 なんとか海外勢の厚い障壁を打ち破ろうと出た勝負は、思惑通りに進まずブリヂストンはパンク寸前に追い込まれます。1988年の米ファイヤーストン買収です。当時の家入社長は、売りに出された米ファイヤーストンの買収を決断しましたが、イタリア・ピレリと競合した結果、買収資金は当初想定の3倍以上の26億ドルに膨らます。

 追い打ちをかけたのは、設備の老朽化、品質管理などに無頓着な米国の経営陣。海外戦略に不慣れなブリヂストンは米国現地に任せましたが、裏目に出ます。欠陥タイヤ問題も続きます。1991年、当時の海崎副社長が米国経営のトップに立ち、改革を断行。社長に就任した海崎氏は10年以上かけてファイヤストーンの経営再建を達成します。現在は世界のタイヤ市場でシェア16%超と仏ミシュランとほぼ肩を並べる世界第2位のメーカーです。

歴代最年少の森田社長の手腕は?

 日本企業の多くは海外買収で経営の迷路にないりがちですが、ブリヂストンが迷路から脱出できたのは経営の形にあると考えています。創業家の石橋家は、2代目社長の石橋幹一郎氏が1973年に退いて以降は、創業家以外の社長が就任しています。大株主としての絶大な力を保持していながらも「君臨すれども統治せず」のスタンスを貫きます。

 買収失敗でパンク寸前まで追い込また時も創業家は余計な口出しをせず、海崎洋一郎社長が再建を指揮します。ブリヂストンの経営継承は日本の他の企業に比べて健全と見て良いでしょう。

 2026年1月には歴代社長で最年少の森田泰博社長が誕生しました。海外経験も22年と長く、「圧倒的に若く行動力あふれる人材」と世界工場の4割を減らすなど大規模なリストラを実行した前CEOの石橋秀一氏は評されています。

 ブリヂストンは2031年、創立100周年を迎えます。パンク寸前を乗り越えた経験と決断力が歴史に刻み込まれています。森田社長がパンクしないタイヤ・エアフリーで次の100年を支えるタイヤメーカーに進化させているのではないでしょう。

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