
リサイクル排水のクラフトビールを飲みたい!酒のつまみは「ネイチャーポジティブ」
クラフトビール。今や、日本全国どの街にでもあるのではないかと思えるぐらい文字通り、雨後の筍のように湧き上がりました。いろいろ飲み歩きましたが、一番気に入っているのは北海道の美深町です。
村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」の舞台ともいわれ、「Wild Sheep Chase」ラベルなど趣向を凝らしていくつものの物語を奏でるビールを創っています。飲み終わったビンを捨てられず、今も大事に取っています。
日本全国どこを探しても絶対に見つからないクラフトビールが米国にありました。「エピック・ワンウォーター・ブリュー」。リサイクルした排水を利用したクラフトビールです。
水処理企業のエピック・クリーンテックが製造しており、サンフランシスコ市のマンションで使用されたシャワーや洗濯の排水を高度な膜でろ過し、紫外線殺菌で処理しています。当初は処理水の安全性を訴える目的でクラフトビールを製造しましたが、2025年後半から商品化され、年間25万缶の計画で販売を始めたそうです。
サンフランシスコで製品化
わざわざ排水の処理水を利用するのは米国にとって水資源が深刻な問題になっているからです。水の使いすぎや干ばつ、気候変動によって水源地は枯渇、全米に広がっています。カリフォルニア州、アリゾナ州やテキサス州など慢性的な干ばつに苦しむ地域では自治体が法改正し、排水を直接水道水に混ぜて供給するプロジェクトが動いています。
「エピック・ワンウォーター・ブリュー」も地元のサンフランシスコ市などが一定規模以上の新築ビルに「排水リサイクルシステムの設置」を義務付ける法律を施行しているため、自社技術のPRを兼ねて開発されました。
米国だけではありません。飲料水が少ないシンガポールはすでに政府が主導して排水処理のリサイクルを進めているほか、気候変動で猛暑や干ばつが常態化している欧州でドイツなどで技術開発が加速しています。
水資源の枯渇のみならず自然環境と企業活動が共生する社会システムを構築する。「ネイチャーポジティブ」と呼ばれ、国連が主導して世界に定着させようとしています。
自然資源を守る4つの指標
国連によると、世界のGDPの過半は自然資源に依存しているにもかかわらず、自然環境の破壊は止まりません。地球温暖化阻止に向けて脱炭素社会への移行を呼び掛けたのと同様、「ネイチャーポジティブ」は2030年までに自然環境の破壊を阻止して、逆に増やそうという目標を設定し、世界各地で国際会議を開催しています。
2026年7月には熊本市で環境省が主導して開催されました。会議では企業や金融機関、自治体などがネイチャーポジティブを進めるための4つの共通指標が公表され、具体的な取り組みが呼びかけられました。
日本は心理的な壁
残念ながら「ネイチャーポジティブ」は日本ではまだまだ遠い存在です。
排水処理水の再利用を事例に考えてみてください。「蛇口をひねれば安くて美味しい水道水が飲める」。全国津々浦どこでも安心して飲める良質の水があるだけに、わざわざ排水リサイクルした飲料水を利用するなんて論外。排水処理水のコストが高いか安いかの問題以前に、心理的な抵抗はあります。
日本は本気を出せば、すぐに実現できます。なにしろ排水処理に使われる膜技術は、東レや旭化成、クボタなどが世界シェアでトップ争いするほど。
しかし、日本の場合、工場などから出てくる排水は浄化されても川や工場冷却水、トイレの洗浄水に回るだけ。水資源の確保というよりは、汚染水ゼロが目的。もちろん、自然保護に貢献する動きですのでからもっと拡大すべきですが、公害問題の発想から抜け出していない印象です。もっと地球環境の視野を取り入れ、次のレベルに挑む時期です。
「羊をめぐる冒険」のように
ところが、環境省など政府や金融機関が「ネイチャーポジティブ」と連呼しても、切実さが全然伝わってきません。エコロジー、ESG、SDGsと同じですね。ここ10年以上も経済界が重要性を強調しても、損害保険や生命保険で顧客を騙して金銭を詐取する事件が絶えません。言葉に心がこもっていないのです。
ESG、SDGsに続いて「ネイチャーポジティブが大事」と呼びかけられても、環境省や金融機関などが言葉遊びしているとしか思えないのです。企業倫理が「リンリ、リンリ」と鳴く秋の虫と重なってしまいます。
「ネイチャーポジティブ」を本気で実践するなら、企業がどんどん追随する仕掛けが必要です。クラフトビールの再現と同じ感覚です。
環境省は「羊の群れ」を追いかける牧羊犬のつもりで頑張ってください。あっち吠え、こっちで羊の足を噛み、多くの羊をまとめて進めていくのです。美深町の「羊をめぐる冒険」に続き、「排水リサイクルのクラフトビールを巡る冒険」を飲んでみたい。

