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日本経済とW杯日本代表「強い」と信じても「実力」は強くならない

  政府が公表した成長戦略を眺めていたら、同じ時期に開催していたサッカーW杯の日本代表とダブって映ってしまいました。

 森保一監督は「目標は優勝」を明言し、チーム最年長の長友佑都選手は鼓舞に努めます。巨額の放映権を支払ったテレビ局なども視聴率を高めるため、かつて日本代表に選出された解説者らと共に「目標は優勝」に向けて高揚感を煽ります。

冨安選手の指摘は成長戦略にも通じる

 結果は説明不要でしょうが、念のため。グループステージはチュニジアに勝利しましたが、オランダとスウェーデンとは引き分け。決勝トーナメント1回戦はブラジルと対戦し、2対1で敗戦。点差はわずかですが、残念ながら実力の差は明らかでした。

 後半、ブラジルの攻勢に対応して守備固めに移りましたが、守備はブラジルに翻弄され続けます。勝ち越された後も、同点、願わくば逆転を祈る勢いは見当たりませんでした。センターバックの冨安健洋選手はブラジル戦後、「世界レベルと戦うためには個の成長が1番の課題」と強調していましたが、その通りだと思います。

 冨安選手の指摘は、そのまま政府が公表した成長戦略の欠落を的確に解説しています。

 成長戦略はまさに大風呂敷。2040年度までの15年間、官民で累計370兆円を超える投資目標を設定し、人工知能(AI)や半導体、造船などの「戦略17分野」に集中します。取りまとめを担った城内成長戦略相が「首相は今ここで危機管理投資、成長投資を推進しないと、手遅れになるという危機感が強い。日本が勝ち組になるのか負け組になるのかの瀬戸際」と政府の本気度を強調します。

数字を積み上げても、成果は出ない

 ところが、手遅れになるという危機感とは裏腹に、サッカー日本代表の優勝と同様、高い目標を達成する具体的な道筋が描けていません。集中投資する案件はAIを使ってロボットなどを自律的に動かす「フィジカルAI」に10・5兆円、そして半導体に68兆円、次世代無線通信に20・5兆円と具体的な数字が並びますが、いずれも関連企業や業界団体から設備投資計画を聞き取り、市場動向の推計などを加味して金額を積み上げた数字です。これら兆円を超える巨額投資によって、日本の産業力がどう強靭化し、日本経済の成長力がどう高まるのか数字の中身がさっぱり見えません。

 情けないのは、総額370兆円と謳う投資は官民合わせてと説明しますが、政府の支出がどの程度を占めるかなどの詳細は明らかになっていません。責任ある積極財政を掲げる高市首相ですが、肝心の支払いになると口がモゴモゴするようです。居酒屋のお会計で「財布を忘れた」と話して割り勘を拒否するケチな酔っぱらいを思い出します。食品の消費減税の代替財源すら手立てできていない現況を考えたら、成長戦略の宴の支払いは民間持ちが当然と考えているのでしょうか。

日本経済の疲弊を直視して

 正直、いつもながらの風景を繰り返し目撃している気分です。新政権が発足すると、恒例行事として成長戦略を花火のように打ち上げますが、最も重要な成果はどこかへ置き去りに。政府が常に強調する危機感はいつも空回りするだけ。だから、1990年代からずっ〜と、日本経済の活力は疲弊し続けています。

 経済成長の原資ともいえる日本の国内設備投資を海外と比べてみてみます。企業の売上高で研究開発や設備投資が占める金額の比率は日本の場合、7%程度。米国は11%程度、ユーロ圏は9%程度ですから、物足りないどころか寂しい水準です。資源小国の日本にとって自動車、エレクトロニクスなど製造業が大きな活力泉ですから、本来なら米国や欧州を上回るのが当然ですし、後押しするのが政府の役割です。

 政府の産業創出力にも期待できません。重点投資する半導体をみてください。1980年代、世界一のシェアを誇った日本の半導体産業は1990年代から韓国、台湾に抜かれ、中国が迫っています。東芝と並ぶメモリーメーカーだったエルピーダメモリを救済できず、2012年に経営破綻を阻止できませんでした。ここ数年、台湾のTSMCに1兆円を超える補助金を支払う一方、半導体の日の丸プロジェクト「ラピダス」を急造で育てていますが、奔走するエルピーダの坂本社長をよく知っているだけに、「何をいまさら」という思いは消えません。

個の成長も物足りない

 冨安選手が切実に語った「個の成長」、言い換えれば企業の実力は世界レベルに達しているのでしょうか。AIにはメインプレーヤーはいません。繰り返しになりますが、半導体も半導体製造装置で頑張っていますが、世界レベルとは程遠い。メモリーはキオクシアの前身である東芝がかつて世界トップでしたが、今は韓国に追い抜かれて世界第3位に。米国のトランプ大統領に尻を叩かれて戦略分野に加えられたとしか思えない造船は、韓国、中国の航跡を追う位置にまで遅れています。

 日本が本気で頂点をめざすなら、自画自賛に自己陶酔する時間はありません。サッカー協会も高市政権も、気づいているのかなあ〜。

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