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トヨタの経営はNHK「銀二貫」 豊田会長は店主、近社長は番頭どころか丁稚どん 

  NHKのテレビ番組「銀二貫」。父を仇討ちで亡くし、大坂天満の寒天問屋の主人に銀二貫と引き換えに命を救われた武士の子が、商人として成長する姿を描いた人情劇です。問屋の旦那を津川雅彦、番頭を塩見三省、主役の丁稚を林遣都がそれぞれ演じています。準主役で幼い娘役の芦田愛菜の演技力に舌を巻きました。筋立てはやや強引で時代劇らしいといえばそれで終わりですが、天満界隈で飲み歩いたこともあって「銀二貫」の空気感にハマりました。

大阪天満の問屋とそっくり

 といってまさか、令和の「銀二貫」を視聴するとは思いもしませんでした。トヨタ自動車です。店主と番頭、いや丁稚と呼んだ方が正確かもしれません。店主はもちろん、創業家出身の豊田章男会長。丁稚どんは4月に交代した佐藤恒治社長、代わって就任した近健太社長社長。この構図を眺めると、経済産業省や東京証券取引所が海外投資家向けに盛んにPRするコーポレートガバナンスと呼ぶ経営改革が空疎に響きます。

 まさに丁稚どんと痛感したのが、近社長のインタビュー。テレビ、新聞などで就任3ヶ月半が経過した自身の経営について答えているのですが、いやあ、驚きました。意図したのかどうか不明ですが、自動車会社の経営を素人の目で見つめています。「将来の野望」なんて微塵もなく、社長の責務を背負った自覚の重さも感じません。

 近社長は誰もが認める豊田章男会長の最側近。入社時は同じ経理育ち。豊田会長の秘書を8年間務め、出世街道を一気に駆け上がりました。前任の佐藤恒治社長は技術者だけに、豊田章男会長がこだわる「クルマ屋」を唱和していましたが、近社長は今も経理出身者を重用する豊田会長を念頭に経理の視点をアピールします。佐藤社長より距離が近く、ほぼ一心同体。

近社長自身の思いはどこに

 近社長のインタビュー内容を「トヨタイムズ」で改めて確認しました。まず「稼ぐ力」を語ります。生産や開発、販売など「稼ぐ場所は現場」と強調し、部品の種類の見直しやコスト削減など「まだまだ改善の余地がたくさんある」と説明しました。失礼ながら、トヨタの常套句、社員、グループ企業のみんなが口にする言葉です。

 トヨタの強さは1960年代から徹底した現場主義。1980年代のバルブ経済寸前、過剰なデザインや技術を加えすぎて収益を悪化させた反省から、部品点数の削減はずっ〜と至上命題。社長が改めて危機感を煽るほどトヨタの生産現場は40年前に逆戻りしているのかと心配になります。

 次いで「損益分岐台数」。年300万台規模の国内の車の生産台数を維持したいとしながらも、損益分岐台数は「やや高い状況にあるので、少し反転をしていきたい」。「損益分岐」も経理が経営改革に持ち出す際の常套句、「基本の基」。社長がわざわざコメントすることはないでしょう。

 一番大事な自身の後ろ盾である豊田章男会長のヨイショは忘れません。「10数年前に豊田がもっといいクルマをつくろうよと言ったときに、社内の反応は『もっといいクルマ』って何ですか?」「『もっといいクルマ』というのが何か教えてくれたらつくりますけど」。当時の現場は考える力を失っていたが、豊田会長の現場重視によって今は「モビリティカンパニーって何ですか。教えてくれたらやりますよという人は、あんまりトヨタにいない」と功績を強調します。言い換えれば、豊田会長が敷いた路線を維持すると表明しているわけですね。

 それでは近社長自身はトヨタをどんな会社にしたいのか。「社内でもモビリティー(移動)の会社とは何なのかという答えがない。個人的には『人のモビリティー』にこだわりたいと思う」と述べています。残念ながら、トヨタイムズで確認しても趣旨がよく理解できません。

私は、これは個人的にですが、やっぱり人のモビリティにはこだわりたいなと思います。「すべての人に移動の自由を」ということですし、当然それも一つの(移動手段という)感じではなく、動ける人はより動けるし、動きにくくなる人には、少しでも動きをサポートするようなもの。それはクルマの場合もあるでしょうし、ロボットの場合もある。車いすのようなケースもある。飛行機のケースもある。
いろいろなモビリティがあると思うんですが、最後は人が動くことによって、その人の人生の価値(が高まる)というか。ある人が「モビリティは人に尊厳を与えてくれるものだ」というふうに言ってくれたことがあるんですけれども、私は本当にそういうことだと思っていて、人が動くことによって、いろいろなものを見て、いろいろな人と出会う。
より多くの人が、より良く動けるような世界というのが、私が(実現)していきたいモビリティの世界です。

 トヨタは創業以来、ずっとモビリティー、言い換えれば「人の移動」を考えてきたはずです。自動車メーカーとして移動の手段をどう提供してきましたが、近未来は電気自動車(EV)、空飛ぶタクシーなどより多様なモビリティーを開発しなければいけません。近社長の役割は、豊田会長の意向に応えるだけでなく多くの人知を集めて新しいトヨタの未来を提示することではないでしょうか。

トヨタの強さは剛腕な番頭が

 トヨタにはかつて剛腕な番頭がいました。経理出身なら花井正八、辻源太郎、販売・部品調達など広範な視野に立つ大島疆と強者が副会長として名を連ねていました。ただ、岩崎正視副会長あたりから番頭がヨイショし始め、以後は番頭は皆無。社長が丁稚になるのも時間の問題だったかもしれません。

 豊田家は「一代一業」を家訓に豊田佐吉は自動織機、喜一郎は自動車、章一郎は住宅を創業しました。豊田佐吉は自動織機に満足できず、太平洋をひと飛びする電池の開発に挑戦しています。章一郎の住宅は失敗しました。豊田章男会長は言葉にするのも嫌なほど遠ざる奥田碩元社長が開発したハイブリッドカーで稼ぎまくり、世界一の座につきましたが、自身はレース三昧。夢は語っていません。

 トヨタには「銀二貫」では計り知れないほどの財力があります。丁稚どんの社長ではとても決断できないでしょう。将来の社長に就くであろう豊田大輔氏はどう活用するのか、あるいは使い果たすのか。

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