アフリカ土産物語(17)エチオピア正教 高原で歴史を刻み続ける神秘の宗教的景観

 

2000メートルの高原で宗教画のような祈りの景観

  テロや政変で世界がどんなに震えていようと、エチオピアの高原で粛々と歴史を刻んできたのがこの国独自のキリスト教だ。深い峡谷を伴う標高2000メートルもの地形によって外部のキリスト教世界と隔絶され、エチオピア正教として人々の信仰を集めてきた。現地で目撃した宗教画のような信徒たちの祈りの景観が忘れられない。

 その伝来は諸説あるが、アクスム王国の栄えた4世紀にキリスト教が導入され、6世紀ころにシリアから訪れた9人の聖者が教会や修道院の活動に力を注いだと多くの書物に記されている。

 アクスム王国の滅亡後、11世紀初頭にはザクウェエ王国が成立し、その第7代のラリベラ王(在位1190~1225)が巨大な凝灰岩をくり抜いた教会の建造を手がけたとされる。当時はイスラム勢力に包囲され、聖地エルサレムへの巡礼が果たせず、岩窟聖堂群を抱えた標高2600メートルにある町は王の名を冠した聖地となった。

アクスムの教会で祈りを捧げる修道士たち

 今や世界遺産として貴重な観光資源となっている北部の町ラリベラ。十字架の形に岩盤を削った聖ギョルギス教会には、信徒たちが早朝のミサに集い、時空を超えた神秘的景観が出現した。厳格な断食など、彼らの宗教的慣習は旧約聖書の世界を保っているという。

岩盤を削った教会が現れる

ラリベラの聖ギョルギス教会

岩盤を削り込んだ聖ギョルギス教会

 エルサレムを模したラリベラの町にはその名もヨルダン川が流れ、岩窟教会が点在する。さらにエリトリア国境に近い聖地アクスムを訪ね、教会に入るとキリストの絵が飾られた部屋には日本の民謡のような旋律で「ハレルヤ~」と唱和する聖歌朗詠が響いていた。

 首都アディスアベバの旧革命広場(マスカル・スクエア)で開かれた「マスカル祭」の前夜祭に出かけたのは2003年9月27日だった。マスカル祭は、キリストが処刑されたゴルゴダの丘から後年に十字架が発見されたことを祝福する行事で、エチオピア暦で新年初頭にあたる時期に行われる。マスカルとは、アムハラ語で十字架を意味する。

首都アディスアベバの旧革命広場で開かれた「マスカル祭」の前夜祭

エイズ撲滅を誓う祈りの場にも

 カラフルな刺繍の衣装を身に着けた聖職者たちが十字架を掲げて現れ、鐘や太鼓の拍子に乗って荘厳な唱和が青空高く広がった。その年のマスカル祭には初めてエイズ予防キャンペーンの巨大な看板が設置された。深刻なエイズ被害の対策に追われていた時期で、最も有名な宗教行事の場がエイズ撲滅を誓う「祈り」の場となったのだ。

 広場の中心には木の枝の束で組んだ「デメラ」と呼ばれるヤグラがそびえていた。ピラミッド状のデメラの頂点は「マスカルの花」と呼ばれる野菊を編み込んだ十字架である。

アディスアベバの街角でデメラの炎を囲む人たち

  日没となり、デメラに火が放たれ、オレンジ色の炎と煙に包まれて一気に燃え上がった。崩れ落ちた十字架めがけて人々が駆け寄る。「先はどっち向きだ?」。煙の方向や十字架の倒れた方角で新年の作物の出来を占うのだ。

炎は新年を迎えた喜びの表情も照らす

 夕闇の街角を歩くと、小さく燃え盛るヤグラを囲む庶民の姿があった。小枝を集めて自前のデメラをこしらえて点火する。隣近所の住民らが手拍子をしながら、赤々と燃える炎を見上げる。新年を迎えた喜びの表情が炎に照らされて浮かび上がった。(城島徹)

エチオピア土産。聖ギョルギスが竜を退治している様子を表した絵

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