
ホンダが消える66 ”ブルドッグ”好調を喜べない 成功体験を反芻しても4輪車は青色吐息
ホンダが5月に発売した小型電気自動車(EV)「スーパーワン」がわずか2週間で受注1万台を超え、大ヒットしています。国や東京都の補助金を利用すれば、EVを実質140万円台で購入できる割安感がズバリ大当たり。デザインも43年前に発売し、筋肉隆々のボディから「ブルドッグ」の愛称で大人気を集めた「シティターボⅡ」を再現。狙い通りホンダファンの心をギュッと掴みました。
「シティ」は時代を先取り
「スーパーワン」は2025年10月末のジャパンモビリティショーで公表された時、すでにヒットの予感がありました。ひと目見るなり「シティターボⅡ」、「ブルドッグ」とわかる存在感にショーを訪れた客が吸い寄せられていました。会場で実車を眺めながら懐かしさを覚えましたが、「ホンダはまた禁じ手を繰り出したなあ」と残念に思ったものです。
走行性能は素晴らしい。EVとはいえ、ベースは軽自動車「Nシリーズ」を使い、発売済みの軽乗用EV「N-ONE e:」と同じバッテリーや電気モーターを採用しています。「ブーストモード」を選べば、モーター最高出力が跳ね上がり、ターボエンジンさながらの瞬発力と加速力を楽しめそうです。フェンダーは幅広に、車体は前後にオーバーハングとモリモリのボディですから、運転する自分も疾走するブルドッグになった気分に酔えます。おもしろくないはずがありません。
それでも残念と思えるのは、過去の成功体験の焼き直しを選んだホンダの決断です。手っ取り早く「売れる車」を作りたかったのかと勘ぐりたくなるのです。
「シティ」を選ぶ気持ちはわかります。数多くのヒットを生み出したホンダの中でも特筆に値する車です。
1980年代、子どもたちがテレビCMの真似をして連呼するほど大きなブームを湧き起こしました。1200CCのエンジンを搭載した小型車ですが、背高のトールボーイ。大人4人が乗っても荷物を積む余裕がありました。1993年に軽自動車の概念を一新しスズキ「ワゴンR」より10年以上も早く登場し、セダンでもないワゴンでもない小型車の新しいコンセプトを先駆けて提示していたのです。
「シティターボⅡ」は使い勝手の良い車からさらに一皮剥けてターボを使ってブイブイ走るワクワク感を加えました。当時の小型車でこんな遊び心満載の車はありませんでした。
2026年、すでに発売している軽乗用EV「N-ONE e:」と競合せずにホンダのもう一つのEV「スーパーワン」を訴えるには最適の成功例でしょう。時代を画した車だけに、そのオマージュを込めた新車「スーパーワン」を発売すれば話題になるのは当然。しかも、エンジン車の軽よりも低い価格ですから、ヒット間違いありません。
もっとも、ホンダにとって成功体験の焼き直しは最近の常道手段。2025年9月に発売した「プレリュード」。こちらも1980年代にデートカーとして若者のハートを捉えた車の復刻版。価格は600万円以上と高級車ですが、かつてのプレリュードでデートした若者も今は功成り名遂げて財力に余裕があります。「あのプレリュードが欲しい」と思ったら躊躇しないでしょう。
挑戦しないホンダの証
「S660」も同列です。若手技術者による斬新なアイデアを活かすコンペティションの成果として軽の2シータースポーツカーとして発売され、今も街で走る姿をみかけます。ただ、マツダの「ロードスター」と異なる楽しさを体感できますが、「S660」は1991年に発売された「ビート」の焼き直しにしかみえません。
「スーパーワン」も「プレリュード」も「S660」も「シティ」と違って挑戦していないのです。創業者の本田宗一郎氏は常に世界一をめざして挑戦し続けましたが、今のホンダは挑戦よりもとりあえずは成功することに最優先しているようです。
かつて人気があったホンダブランドを懐かしのメロディのように目の前に披露しているようでは、ホンダの4輪車事業は息を吹き返しません。

