
日産、セブン&アイが社長交代(上)第2の西友はどっち?再建のカギは消費者の支持
日産自動車とセブン&アイ・ホールディングスがそろって社長交代します。ともに経営不振の袋小路に迷い込み、出口を見出せません。海外から買収提案が寄せられているのもそっくり。社長交代は起死回生の勝負手ですが、トップが代わって大胆な経営戦略を打ったとしても、息を吹き返すほど両社が苦しむ病状は軽くはありません。仮に海外企業の傘下に収まったとしても、生き残れるかどうか。米ウォルマートの傘下に入った西友は結局、身売りされてしまいました。
2兆円の自社株買いも
セブン&アイは6日の取締役会で抜本的な経営再建策を決めました。井阪隆一社長を退任させ、社外取締役のスティーブン・デイカス氏が社長に就任します。さらにカナダのコンビニ大手のアリマンタシォン・クシュタールから提案された買収を阻止するため、2030年度までに現在の時価総額の4割に相当する2兆円の自社株買いも明らかにしました。株主還元を重視する姿勢を示し、低迷する株価を引き上げる狙いです。資金は「イトーヨーカ堂」など総合スーパー事業の売却に北米コンビニ事業を上場することによって得る売却益の一部を利用します。配当政策も累進配当を導入します。
デイカス氏の社長就任は5月27日付で、セブン&アイで外国人社長が就任するのは初めて。2022年5月からセブン&アイ社外取締役、2024年からは取締役会議長を務めています。これまでも2011年、米ウォールマートの傘下に入っていた西友CEO(最高経営責任者)に就任しており、ウォルマート流の「毎日安売り」を徹底する一方、ネット販売も始め、6期連続の増収増益を果たしています。経営の屋台骨が崩れそうだった西友をよく支えたと思います。2016年からは回転寿司のスシローチェーン「スシロー」の持ち株会社スシローグローバルホールディングス会長を経験。消費者と直接触れるビジネスに長けている経営者と理解して良いでしょう。
経営手腕は?
経営手腕は期待できます。ただ、セブン&アイはコンビニチェーン「セブンイレブン」を展開する日本最大級の小売業グループです。日本で過去最大級の買収提案とされるクシュタールの攻勢をかわしながら、店舗当たりの売り上げが低迷するセブンイレブンを上向きに転じる具体策はこれからです。成否は未知数といって良いでしょう。
偶然ですが、セブン&アイの社長交代を発表する前日の5日、ディスカウント店大手のトライアルホールディングスが西友を買収すると発表しました。米投資ファンドのKKRと米ウォルマートから西友の全株式を3826億円で買収します。西友はトライアルが得意とするディスカウント店の経験をもとに再生の道をこれからも歩み続けます。
セブン&アイを西友と重ねるのは無理がありますが、新社長に就任するデイカス氏がCEOを務めた経緯も何かの縁。学ぶべき教訓はあるはずです。小売業本来の強さを取り戻さなければ再生しないことです。
西友もかつては日本の小売業を代表するセゾングループの象徴でした。西武鉄道の創始者・堤康次郎氏が開いたストアが前身で、息子の堤清二氏が自ら創業したセゾングループの中核企業として大都市の香りを持つ総合スーパーの全国チェーンにとなりました。しかし、身の丈に合わない規模拡大策が裏目となってセゾングループは経営破綻、2002年に西友はウォルマートの傘下に入りました。
西友は巨大資本の下でも再生できず
ウォルマートは世界最大のスーパーです。米国の巨大資本をバックに米国流の安売りを全面に出した店舗運営で経営は成長軌道に戻ると信じていたはずです。しかし、日本の消費者には「安かろう、悪かろう」と映り、客足は遠のくばかり。投資ファンドのKKRが参画するなど試行錯誤を重ねましたが、長期低迷を脱することはできず、2025年3月にトライアルに買収される結末を迎えました。
セブン&アイは日米のコンビニ事業が経営の大黒柱です。残念ながら、日米ともに店舗の売り上げは期待通りに伸びていきません。日本では「セブンイレブンは高い」というイメージを払拭するため、「うれしい値!宣言」キャンペーンを展開しましたが、お客さんの心には刺さりません。安売りだけで経営は再建できないことは西友が証明しています。消費動向を捉えるマーケティング、商品開発に問題があるのです。
経営再建のカギはずばり消費者の支持をどこまで集められるか。自動車の日産、小売業の「セブンイレブン」と業種は全く違いますが、「この日本を代表するブランドをいつも身近に感じていたい」と思わせる魅力を再びアピールできるか。熱い思いが抱く消費者を増えれば、自社単独の経営再建を後押しする力になりますし、海外企業による買収を跳ね返す盾になるはずです。リストラや財務戦略などで見かけ上、健全性を取り戻しても近視眼的な小手先の再建策として足元を見られるだけです。