リニア中央新幹線 静岡工区が始まっても「大深度」の呪縛が立ち開かる

 静岡県の鈴木康友知事は7月7日、JR東海が進めるリニア中央新幹線の静岡工区の着工を容認すると表明しました。 前任の川勝平太知事が2017年10月、自然環境や大井川の水資源への影響を懸念して静岡県内の着工を認めない姿勢を打ち出して以来、9年近い歳月が過ぎました。

9年間で予想外の事態が相次いで発生

 JR東海のドンと呼ばれた葛西敬之氏と安倍晋三首相の極めて親密な関係によって、国家プロジェクトに格上げされたリニア中央新幹線。東京ー名古屋をわずか40分間で、東京ー大阪も1時間で結びます。日本経済の大動脈である東海道新幹線に代わる超高速交通は日本中が注目していただけに、最大の難所だった「静岡県の認可」で大きく前進するとの見方が広まっています。

 しかし、静岡県の工事が差し止められた9年近い歳月の間、リニア中央新幹線の工事は「大深度」の呪縛に囚われていることが証明されています。地下40メートル以上の「大深度」を掘削する工事は、水脈や岩盤など予想できない状況が待ち受けています。JR東海は事前に環境調査を実施していますが、予想を超える思わぬ事態が相次いで発生しています。

 岐阜県瑞浪市で井戸やため池の14か所で水位の低下が確認されたほか、東京・町田市では工事現場に近い住宅の庭から水と気泡が湧き出てきました。始発駅である東京・品川駅でも掘削機の空気が漏れて道路が隆起しました。いずれも工事は中断され、原因を追求して再発防止策が検討されていますが、工事の進捗は大幅に遅れています。

地下深いトンネル工事は難工事

 最大の難関は大深度のトンネル工事。時速500キロで疾走するリニア中央新幹線は、直線を基本に路線を描くため、大都市や山脈の地下を突き抜けるトンネルが全区間の86%を占めます。いずれも過去経験のない難工事が待ち受けています。例えば「南アルプストンネル」は山梨県の富士川水系、静岡県の大井川水系、長野県の天竜川水系を貫きます。

 首都圏などの大都市を貫くトンネルも同様です。始発の品川駅から神奈川県相模原市に建設される新しい駅までを結ぶ全長およそ37キロの「第一首都圏トンネル」は大都市ゆえに地表に多くの建物が密集、地下には地下鉄などのインフラ設備が張り巡らされています。山脈の地下とは異なる複雑な現場となり、より慎重に掘り進めることが避けられません。実際、掘削が完了したのは一部にとどまっているということです。

 駅周辺も容易ではありません。起点となる品川と名古屋のほか、神奈川、山梨、長野、岐阜の4つの県にひと駅ずつ、あわせて6駅が建設されます。品川の道路隆起と同様、各駅周辺には主要な建物や道路が集中しており、工事事故は許されません。

  JR東海の丹羽俊介社長が鈴木静岡県知事の容認を受けて「想定よりも難しい工事になるのではないかと考えている」と話し、静岡県内の工事は想定より10年よりも長くかかる可能性がある認識を示したのも、この9年間で明らかになった工事の実態を考慮しているからです。

地域と自然環境を最優先して

 リニア中央新幹線の建設を支える大深度のトンネル工事は、国土交通省が2005年5月に施行した「大深度法」が根拠になっています。道路、鉄道など大規模な事業を地権者の承諾や補償無しに効率的に行えるようにするため、「地表面から40メートル」または「建築物の支持地盤上面から10メートル」の公共の事業を私有財産権よりも優先する考え方です。

 リニア中央新幹線は、大深度法のガイドラインに従って審査され、2018年10月17日に認可されました。国のお墨付きはあります。しかし、机上の計算と現実が食い違うのは当然。非難するわけではありません。

 リニア中央新幹線は日本経済の大動脈とはいえ、地域の住民や自然環境に悪影響を与えるなら、その役割は本末転倒。計画そのものはすでに目標の2027年開業を見送り、2036年以降にずれ込む見通しです。日本が世界に誇る最先端の技術が投入されるリニア中央新幹線だからこそ、JR東海はもちろん、国も後ろ盾として工事の進捗状況を時間をかけて念入りに精査して進めて欲しい。「大深度」の呪縛から逃れる唯一の方策です。

過去にこんな連載を書いています。ご一読ください。

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