熱帯樹林のなかにボーイング

南太平洋 4 ナウル 鶏糞で購入したボーイングが熱帯樹林に

 ナウルはリン鉱石の輸出で1980年代には太平洋地域で最も高い生活水準に達します。公共料金や税金など一般の生活関連費用は無料という中近東の石油産出国と並ぶ資源バブルを謳歌したのです。その結果、国民1人当たりのGNP(国民総生産)は2万ドルとなり、当時の日本の2倍、アメリカの1.5倍に相当します。

 世界でもトップレベルの金満国家に生まれ変わりました。日経ビジネスの記事によると、新婚には一軒の家が進呈され、リン鉱石採掘などの労働はすべて外国人労働者に任せ、国民はまったく働かなくなったそうです。国民の10%が公務員として働き、残る90%は無職で、「毎日が日曜日という“夢のような時代”が30年ほどつづくことになりました」とあります。

南太平洋の首脳記念写真

 

 私がナウルを訪れたのは1994年でした。南太平洋の島嶼国やオーストラリアなどの首脳が参加する”太平洋サミット”がナウルで開催されたのです。南の島々が集まる国際会議がそんなに重要なのかと首を傾げる方が多いと思います。

 現在もそうですが国連など国際機関での多数派工作の一環として中国が政治・経済で影響力を行使しているため、南太平洋をめぐる舞台裏では台湾を巡る駆け引き、そして日本としても国連などでの支持基盤を固めるための経済援助などが繰り広げられます。米国やEUなど派手な舞台ではありませんが、国際政治の駆け引きを垣間見ることができる場です。今は太平洋諸島フォーラム(PIF)として名称を変えて、第一回のフォーラム会合は日本で開催されています。

時間軸を1994年に戻します。一瞬呆然と眺めてしまったボーイングは737で、確か2機が駐機していました。リン鉱石で稼いだマネーの使い道に困り、購入してナウル航空が運航していました。世界でもトップクラスの一人当たりのGNPと言われていましたが、私が訪れた頃はリン鉱石の取り過ぎで経済がおかしくなり始めていました。

国際会議に向けて開店した”近代的なスーパー”

 

 街を歩いても豊かさを感じる風景は少なく、日本でいうスーパーマーケットが一軒見つけたので入ると、品揃えも日本並み?でびっくり。現地の人に聞いたら、「太平洋サミットが開催されるから、綺麗なスーパーを建設したのだ」と打ち明けてくれました。確かにサミット会場となるホテルは開催日ギリギリまで建設中で、いくら南太平洋の時間軸が違うとはいえ「本当に大丈夫なのか」と心配したほどです。

 宿泊したホテルも通信状態が悪く、メディアの使用は時間ごとに割り当てられ時々途絶えます。会社の出張費でナウルまで来ていますから、本社に到着したぐらいは伝えないといけないと思うのですが電話がつながらない。南太平洋の出張のあるある話ですが、せめて一言か一文字でも配信しないと「南の島のビーチでのんびり遊んでいるのだろう」と誤解される恐れがあります。

ナウルの普段の風景

 

 小さな島ですから一周しようと考えて自転車でもないかと探していたら、地元の人が「忙しくないからトラックに乗って行けよ」と誘ってくれて地元の人しか知らない道を縦横無尽に走ってくれました。「今回のサミットのおかげで島がきれいになったんだ」と笑いながらも「見せたいものがある」と山中に連れて行かれました。

 林の中を分け入ると、産業廃棄物の山です。タイヤ、冷蔵庫、テレビ、廃車などなど。「外国の政府関係者やマスメディアに見られると恥ずかしいから、林の中にゴミを隠しているんだ」と自虐的に苦笑します。世界トップクラスの一人当たりのGNPと言われながらも、その実態はとても豊かさを感じられません。

 また日本に占領された時期があるので、大砲や機関銃など錆びて朽ちた兵器も見つけました。場所は島民の家の前にあります。そこの住民はココナツの殻を割る道具として使っていました。日本軍はナウルに部隊を置いたのですが、米軍はナウルに上陸せず通り過ぎたそうです。日本は大戦中にナウルの人々を強制連行などで貴重な生命を奪う多大な被害を残しています。

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