
黒電話の着信音が「阿修羅のごとく」SNSの伏魔殿をぶち壊す
インスタグラム、ツイッターやフェイスブックなどSNSが放つ強すぎる影響力を懸念して世界で規制の波が広がっています。オーストラリアが2025年12月に16歳未満の利用禁止を打ち出して以来、英国、フランスなど欧州、米国のフロリダ州などで禁止の法制化、討議されています。
SNSは危険極まりない誘惑が潜む
SNSを介して家族、友人らと交わすコミュニーケーションは楽しく、日常生活に欠かせないツールではあるのは間違いありません。ただ、匿名性を悪用した陰湿な言葉による批判、危険極まりない誘惑も飛び交うSNSの世界は伏魔殿が潜んでいるのも否定できません。
SNSの伏魔殿をぶち壊す衝撃音に出会いました。昭和の風景を代表する黒電話です。古道具のアンティークとして人気も出ているようですが、もうほとんど見かけません。出会ったのはNHKドラマ「阿修羅のごとく」。録画した番組を久しぶりに視聴していたら、電話の着信音がドラマの進行を効果的に演出しています。「リ〜ン、リ〜ン」と甲高い呼び鈴がなると、ドラマに登場する加藤治子、八千草薫、いしだあゆみら主役の表情、その場の時間も空間もすべてが停止してしまいます。
黒電話がいつ鳴るのかは誰もわかりません。突然、「リ〜ン」。でも、「なぜ電話が鳴ったのか」「誰がかけて寄越したのか」などいくつかのヒントが頭の中を駆け巡り、ドラマの物語は再び動き出します。一本のドラマの中で黒電話の着信音は何度も何度も「リ〜ン」と鳴り、そのたびに物語は右へ左へ蛇行し、視聴者をテレビの前から離れられないように釘づけします。
向田邦子さんの脚本で好演
脚本家の向田邦子さんが描いたNHK土曜ドラマ「阿修羅のごとく」は1979年1月に放送されました。高価なVTRなんか買えない大学生でしたから、ブラウン管の小さなテレビで視聴しましたが、実は黒電話の着信音はぜんぜん記憶に残っていません。無口な父親役を演じた佐分利信が沈黙を守りながら、顔の表情と吐息で饒舌に語る演技力に呆気に取られていました。
それから47年後、改めて見直したら、黒電話が佐分利信や八千草薫らにも劣らない演技力を放っていることに気づきました。何度も視聴しても脚本が描く父親の浮気、姉妹が秘める夫、恋人との男女関係のおどおどろしさにビビりますが、黒電話の着信音が一瞬で虚実が混濁する家族の会話を一刀両断してしまいます。
なぜ今、黒電話の着信音に気になるのか不思議でした。SNSなどが皆無だった昭和のコミュニーケーションツールは、着信音が一度「リーン」と鳴れば周囲のすべての人に伝わります。電話機を手にするかどうかは個人の自由ですが、とにかく誰かが連絡を取りたいとダイヤルを回したことがわかります。着信する前にどんな会話をしていようが、「リ〜ン」の一声で会話はストップ。まるで土足で部屋に突然、上がり込んで胸ぐらをグイッと掴む無作法なコミュニーケーションツールでした。
オープンな空間での会話の重要性に気づく
ところが、SNSは時間や場所に縛られることなく、コンミュニケーションできる自由を手にできた半面、周囲に知られずに意思疎通ができるため、隠蔽された世界に吸い込まれる恐れがあります。一度飲み込まれたら、もう抜け出せないブラックホールのよう。
デジタルと無縁の黒電話の潔さになんか感動しちゃいます。誰かとやりとりするなら、家族に心配をかけずオープンな空間で会話しろと諭しているようです。
◆「阿修羅のごとく」については、以下のタイトルで感想を書いています。ご一読ください。

