南太平洋 ⑥ ブーゲンビル島 鉈(ナタ)1本あれば熱帯樹林で生活できる

ブーゲンビル島はマラリア最強地域

ブーゲンビル島は赤道直下で、感染病マラリアの最強地域として知られています。電気、ガスが無いなら冷蔵庫は使えない。お湯を沸かして調理する程度の食料を想定するしかない。1週間分の食料を持ってこいと言われても、「赤道直下の気候の気温と湿度に耐える食料って何ですか?」と自問自答するしかできませんので、3日ぐらいは保つ食パン、フランスパンのほかミネラルウォーター、レトルト食品、缶詰などを揃え、出発しました。世界から注目を集める会議ではありませんが、日本だけでなく米国、オーストラリアなど現地パプア・ニューギニア以外からも数多くのジャーナリストが参加します。島の住民は普通の生活をしているわけですから、あとは現地でなんとかなるだろうと開き直るしかなかったのです。

ブーゲンビル島の廃屋

 私なりに楽観して現地に到着したのですが、他国のジャーナリストは私よりはるかに楽観してきて食料すら持ってきていないメディアチームもおり、心底驚きました。といっても、やはり心の底ではみんな不安だったようで、10人程度のチームに分かれて一緒に寝食する廃墟を探すことになりました。思わず、みんな笑顔になります。ゾロゾロと並んで鉱山会社の元社宅の廃屋を一軒一軒チェックして、どの家をどう使うかを吟味します。

 もちろん、電気もガスも水道もありません。期待するのは夜露と風雨、マラリヤを媒介する蚊を防ぐことです。私は寝る場所ぐらいはちゃんと確保したい。それだけでした。ある家の二階に目星を付けて上がったら、ベット用マットが朽ちて鉄骨だけが残ったスプリングを見つけました。一緒に探し歩いた”仲間”がいたのでちょっとだけ躊躇しましたが、空腹は何とか我慢できたとしても、熱帯の病気に負けない体力を温存するためにも「この鉄骨スプリングは私が使う」と宣言して持参の寝袋を敷きました。結果的には大正解でした。以来、ぐっすり眠れる幸せは何にも変えられないと確信しています。

 そんなこんなで夕方になりました。これからが大変です。明かりはない、火はない、食べ物も全員の分はない。持参した食パンをみんなで分けたら、一晩で消えてしまいます。しばらくすれば夜が来る。真っ暗になる。テレビのクルーはカメラ用のバッテリーでランプをつけましたが、「バッテリーが切れたら、仕事にならないだろう」と怒られ、すぐにランプを消したので夕闇が迫るのが時間の経過とともにはっきりとわかってきます。

パンの木?

各国のジャーナリストらと懇談

バナナの木はどこにでもあるのか?

 海外から訪れたジャーナリストたちは互いに目を見合わせます。ところが首都ポートモレスビーから同行していたパプア・ニューギニアのジャーナリストたちはまったく迷いなく動き始めます。まず女性が周辺の木に生える大きな団扇のような葉を持参の鉈(ナタ)で切り始めました。後で聞いたらバナナの木でした。続けてナタで廃墟の周囲に生える邪魔な木の枝や雑草を切って空間を作り上げました。(右の写真はバナナの木、これは日本で育った木です)女性がなぜ木の枝を伐採できるほど大きなナタを持参していたのかにかなり驚きましたが、このナタ一本あればなんでもできることを後日、何度も痛感します。

 女性は切り集めた葉っぱを手際良くまとめ上げてホウキに変えてしまいます。そのホウキでみんなが寝泊りする家々の部屋や周りを砂やゴミを払い、掃除し始めます。男性はといえば、周囲に生えているバナナの木やパンの木を見つけて青い実を採り始めます。椰子やバナナやパンの木があると思っていたけれど、こんなに身近にすぐに手にはいるとまったく想像できませんから、「バナナはどこにでもあるのか!」。外国人にできることはひたすら驚くだけです。

PKOに参加する兵士らを取材

 掃除して集めた葉やゴミ、廃屋の周囲にある木端などをマッチで燃やして、それなりの焚火に育てた後、バナナなどをバナナの葉で巻いて蒸し焼きします。女性と男性の役割が分担され、日常生活の一部のように自然な流れで作業が進んでいます。手際の良さに感動しました。何か手伝おうと思うのですが何もできません。目の前に本物のパンの実がホクホクになって並んでいるのにもかかわらず、私ができたのは持参した食パンを「食べる?」と差し出すくらい。10人程度のグループで輪になって焚火をランプ代わりにおしゃべりして最初の夜は過ぎました。

 翌日から取材を開始したのですが、平和維持軍の監視地域以外は危険とみなされるので遠出はできません。しかも朝方と夕方はマラリヤを媒介する蚊が活発に飛び交います。川や湿地帯の近くには足を向けたくない。結局は取材といいながらも、みんな一緒に行動する機会が増えてしまいます。貴重な水はさすがに自己責任で確保する鉄則でしたが、食事は各自で持参、あるいは調達したレトルト食品、缶詰、乾燥したパスタを分け合います。ちょっとした助け合いなんですが、言葉の壁は消え、数日で仲間になります。

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