
ホンダが消える68 人型ロボット、EVで相次ぐ失策 野心に酔い、未来を見失う
イーロン・マスク氏が人型ロボットの普及速度について「10年後に少なくとも10億台」と予言しました。「できるはずがない」と揶揄されながら、テスラでEV、スペースXで宇宙航空を事業化、いずれも世界トップに育て上げたマスク氏です。ここ5年間、人型ロボットの実用化に挑んでいましたから、10年10億台の確率はかなり高いと見て良いでしょう。
マスク氏は人型ロボット10億台を予言
人型ロボットが人間と一緒に暮らす社会が訪れる。70年前に手塚治虫さんが創り上げた「鉄腕アトム」に驚き、技術の面白さを知った世代です。ついに未来が目の前に登場するのか。本来ならワクワクし、待ち遠しいと感じるはずですが、最初に浮かんだのは残念な思いでした。
なにしろ、人型ロボットは、日本が先駆者でした。
ロボットの概念は1920年にチェコスロバキアの劇作家カレル・チェペックが創案し、世界トップの製造業を極めていた米国で肉付けされました。私自身はSF作家のアイザック・アシモフの著作を読んで未来を想像しましたが、いつか現実になる日が来ると確信したのが「鉄腕アトム」。「鉄腕アトム」は人間の友人、いや親友。互いに信頼し、悩む関係が描かれ、とても身近に感じました。
人型ロボットが日本がトップに。そう感じたのがホンダ「アシモ」。基礎研究は1986年から始まり、1990年代に歩行、小型化に成功。2000年に初代「アシモ」が発表され、2011年には70年前の鉄腕アトム同様、走りジャンプして人間を手助けしてくれる友人として目の前に立ってくれました。
ところが、ホンダは2018年に人型ロボットの開発を終了。2022年には表舞台から引退します。ホンダの経営が悪化したのが撤回引き金だったのでしょう。
先駆のアシモは2022年に消える
イーロン・マスク氏は違いました。テスラの業績が悪化した時でさえ、ロボットの開発を進めています。2021年に初期モデルを公開。2年後の2023年12月には卵をつかんだり繊細な動きが可能になった人型ロボット「オプティマス第2世代」を動画で紹介しました。
イーロン・マスク氏の人型ロボットへの強い思い入れは、その名前「オプティマス」からわかります。ラテン語の「最良」を意味しますが、ロボットファンならすぐに閃くはず。映画やアニメで高い人気を集めるトランスフォーマー「オプティマス・プライム」です。すでに2026年から大量生産へ移り、外部へ販売する計画を明らかにしています。
マスク氏との違いは何か。ホンダの社長には未来が見えないのでしょう。ホンダは1990年代からトヨタ自動車、日産自動車の背中を追い続けたせいか、経営規模の拡大に目を奪われていました。2011年4月に就任した伊東孝紳社長は「2016年度に世界販売台数600万台」を目標に掲げ、当時の世界生産300万台を倍増するというとてつもない大風呂敷を広げました。
2000年代は世界の自動車メーカーにとって合従連衡の時代でした。1999年に日産とルノーが資本提携するなどしたほか、欧米、日本のメーカーは提携を繰り返して「400万台クラブ」に仲間入りするかどうかが求められました。
結末は悲惨でした。過大な目標が現場へのプレッシャーに繋がり、フィットなどで連続リコールに端を発する品質問題が相次ぎます。車種が増えた結果、開発、生産、販売がホンダの身の丈以上に大きくなり、制御できなくなってしまいます。年間600万台を掲げた世界戦略は雲散霧消。
目の前の経営課題に目を奪われる
同じ間違いを2021年4月に就任した三部敏弘社長が繰り返します。就任時に脱エンジンを宣言し、EVへ大きく舵を切ります。「新たなホンダに変革するのだ」という高揚感に酔ってしまったのでしょう。結果はこちらも悲惨。EV戦略の大幅修正で2026年3月期は上場以来初めての巨額赤字を計上します。
礼賛したくありませんが、マスク氏の視線はしっかりと未来を見据えています。過去100年間、支配したエンジン車の次に訪れるはクルマはインターネット、人工知能など最先端の技術を内包する「新たなモビリティ」。中国BYDなどが仕掛ける割安なEV、ハイブリッド車の人気沸騰は、新たなモビリティへの過渡期に過ぎないのです。
残念ながら、ホンダの歴代社長には目の前の経営課題をどう乗り越え、なんとか世界のトップに躍り出るホンダに育て上げる野心に溺れてしまっています。近未来のモビリティ社会でホンダは生き残っているのでしょうか。

