大熊つなげ隊

浪江町に輝きが戻り、地方の課題も照らされる。原発の次は水素なのか

既視感を覚えました。この構想を説明するパネルを目にして40年前がよみがえりました。「原発銀座」と呼ばれた北陸から福島県に向かい、東京電力の職員とともに福島第一・第二原子力発電所を回り、原子力関連の技術や事業の波及効果も取材しました。原発は巨額な建設費が投じられるほか、電源交付金というこちらも巨額の補助金が地域に支払われます。そして原発が稼働している期間は、13ヶ月に一度は大規模な定期検査が実施されることが義務付けられています。原子炉の安全性は万が一に備えて何重にも暴走を防ぐ機能を取り付けられ、安全神話と同義語のように「フェイルセーフ(fail safe)」と呼ばれていました。高度な技術と経験を持った大企業が常時、地域に張り付き、関連会社が一緒に仕事をします。大きな雇用を創出し、給与や飲食などで地域の産業にに貢献します。結果として関連産業の技術と企業も現地に移り、農水産業しかない地域に新たな産業育成と雇用が期待できると期待されていました。

例えば検査技術。原発は一度稼働すると、炉内など放射能汚染される空間に検査員は入れません。目視以外の検査技術として超音波などを利用した非破壊検査と呼ばれる技術が必要で、原発だけでなく橋など大型公共インフラで利用されています。今では多くの用途で使われています。東電は40年前から非破壊検査技術の将来性が高いとみており、福島の浜通り地域に関連技術が移転され、新しい会社が生まれ、産業の裾野も広がると説明していました。物流も技術移転の一つでした。放射能汚染された配送品、大型品など原発関連の品物はかなり特殊です。「この特殊な品物を安全に輸送する技術は原発立地地域だから培われるのだ」と話していました。実際に原発輸送関連で成長する福島のトラック輸送会社も取材しました。

原発など国主導の地方振興の限界を

原発立地に伴い、新たな事業機会を得た福島の企業が多いはずです。しかし、残念なことに受け皿が大きくはありません。専門的あるいは最先端の技術を持つ人材はどうしても福島県以外に頼らざるを得ないのが実情でした。東日本大震災前までは県民所得で原発立地自治体が上位を占めていました。ただ、福島発の産業育成は期待通りに進まず、結局は国や電力業界に頼った地域振興策がメインになっていました。

「原発銀座」と呼ばれた福井県を見てください。関西電力の原発があれだけ集中的に立地しているにもかかわらず、福井県から日本のトップに躍り出る企業はいくつ誕生したのでしょうか。最近、福井県で最も元気で可能性を感じるのは「恐竜博物館」ビジネスです。控えめな県民性の福井県があんなに遊び心を持って積極的に情報発信するのを見ると、うれしくなります。

「福島イノベーション・コースト構想」を見ると、かつての原発立地による地域振興をなぞっているかのような印象です。例えば水素。国はじめトヨタ自動車などが参画して世界最大級の水素エネルギーの基地を創設しようとしています。原発もCO2を排出しない地球温暖化に寄与するエネルギーです。「原発がだめなら、水素ですか」。そう皮肉らなくても良いんじゃないかと怒られそうですが、「原発」を「水素」に取り替えて構想を書き直した印象です。もちろん、技術革新や事業の広がりに差があります。しかし、根底には国主導で全国に工業団地を建設してコンビナートを建設した発想と同じものを感じます。青森県のむつ小川原開発、北海道・苫小牧の「苫東」など失敗例を数え始めたら、まだまだ続きます。

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