MAZDA1 捨て切れないCar guyの誇り 呪縛を解きロードスターで疾走

 高い人気と評価とは裏腹に、業績はまずまずの水準というところでしょうか。2022年3月期は売上高が3兆1203億円、営業利益は1042億円、当期純利益は816億円。売上高は前年実績を上回っていますが、過去5年間でみると4番目。営業利益は4期前より下回りますし、純利益は前年が赤字です。世界販売は125万1000台と前年実績を下回り続けています。ただ、マツダの戦略は販売台数を無理やり押し上げることよりもブランド上級化による収益力強化を主軸に置いていますから、コロナ禍の影響を受けている2022年3月期はかなり健闘したと判断して良いのではないでしょうか。

マツダを支えるのは自動車市場の個性喪失

 マツダを支える背景にはクルマの個性喪失があります。日本に限らず使い勝手の良いSUVタイプが主流を占め、ベンツやBMWなど高級車メーカーまでがSUVシリーズを充実しています。トヨタ自動車も新型クラウンにSUVタイプを加えるとの噂がありますしね。エンジンやシャシー、内装などは異なりますが、遠目でみればどれもそう変わりはありません。大きく違うのは価格差です。

 そして電気自動車がどんどん増殖しています。欧米や日本の自動車各社が電気自動車の開発に逡巡している間に米国テスラが強硬突破して突っ走り世界のトップランナーに躍り出ました。欧米や日本の各社はテスラや中国メーカーを追いかけるのに懸命です。ただ駆動力は電気モーターですから、「フェラリーのエンジン音に痺れる」「BMWのフラットシックスを体感したら、永遠に走り続けられる」「高速時の操縦安定性はやはり欧州車」などのウンチクを楽しげに語る自動車の楽しみはどこかへ置かれていきます。

 デザインも個性を発揮する余裕がありません。電気自動車市場はまだ草創期ですから、エンジン車に比べたら高価格です。各社ともコストダウンを急ぐため、部品の共通化を進めますから当然、フロントからリアまで外観はメーカーに限らずなんとなく似てきます。走行距離の鍵を握る電池技術もまだ発展途上。走行性能、価格、デザインのいずれか、クルマの個性で選ぶのは時期尚早です。SUV人気と電気自動車の2つの波は干渉し合い、エンジン車の時に体感する運転の楽しみは開発段階で後ろへ追いやられています。

 世界の自動車市場にはSUVでも電気自動車でもない、自分が楽しめるクルマが欲しいという市場が生まれています。マツダがこの間隙を突き、抱え込もうとしているようにみえます。

マツダのロータリーはまさに白日夢

 マツダはクルマが大好きな人たちが夢で描いた自動車を生産するメーカーです。米国では自動車の設計・製造にすべてを捨てて熱狂する人間をCar guyと呼びますが、マツダがある広島県には多くのCar guyが今も住んでいるのです。ただ、マツダが追いかける夢の多くは挫折し、その歴史の大半は経営再建に追われます。まるで白日夢のようです。それでも夢を捨てないマツダの人々に最後のCar guyとしての誇りを感じます。

 マツダを知ったのは小学生の頃。雑誌で見た「マツダ・コスモスポーツ」は宇宙船のような驚くデザインで、世の中にロータリーエンジンというものがあることを知りました。1967年に初めてロータリーを搭載したコスモスポーツはクルマ好きなら誰もが欲しいと思っても購入できないクルマでした。

 そのロータリーエンジンの夢を追いかける途中、経営体力を失ってしまい主力取引銀行の住友銀行のもとで米国のフォードと資本提携したのが1979年。1980年代後半からはマツダの経営を取材するチャンスに恵まれ、先輩記者からも数多いエピソードも聞きましたが、ロータリーエンジンの夢を捨て切れないまま、住友銀行主導でフォードと共に経営再建を繰り返す苦い思い出で綴られています。

 マツダの強さも弱さも体現するのがロータリーエンジンです。創業家の松田恒次社長が1961年、ドイツのNSU、バンケル2社とロータリーエンジンの技術導入を契約しました。その時からマツダの苦難の歴史が始まりました。ロータリーエンジンとフォードとの資本提携。この2つの呪縛から解放され、自身の夢を守りながら突っ走ってきたのが今のマツダです。

 次回に続きます。

関連記事一覧

PAGE TOP