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実録・産業史 12)トヨタは徳川家、エンジンは火縄銃 終焉を迎える創業家経営

 日本の現状を見れば日産自動車やホンダ、三菱自動車を除けば、トヨタが資本提携などを通じて過半の自動車メーカーを事実上傘下に収めています。トヨタの創業家は今や日本の自動車産業のピラミッドの頂点に立っているのです。

トヨタの天下です。最近の自動車工業会の会長人事がその象徴です。豊田章男会長の3期連続が決まりました。トヨタ、日産、ホンダが2年交代の輪番制だった会長人事が3期連続の異例の形をとります。業界の問題ですから外野が騒ぐことではないですが、懸念するのは日本の自動車各社に競い合う力を失っていることです。

 カルロス・ゴーンをようやく追い出した日産自動車は目の前の経営再建に必死で業界のことを考える余裕はありません。ホンダは自身の未来を描ききれずに彷徨っています。目の前にはカーボンニュートラルという大命題が待ち構え、自動車の未来は欧州を筆頭に内燃機関エンジンから電気自動車へ急速に描き変えられています。

電気自動車に乗り遅れたら、火縄銃と同じ運命のエンジンが

 未来の自動車のデファクトスタンダード(事実上の業界標準)は電気自動車です。とても残念ですがトヨタ自動車が世の送り出したハイブリッド車はデファクト争いに敗れたのです。自工会会長である豊田章男社長は水素エンジンの可能性をPRしながら、既存の自動車産業の保護を呼びかけています。3万点以上の部品を生産する膨大な自動車産業の裾野を考えたら、そう簡単にエンジンの代わりに電気モーターをシャシーに搭載すれば車が完成するわけにはいかないのは分かります。

 しかも、創業以来、系列部品メーカーなどとは1950年の経営危機で証明したようにトヨタと深く揺るぎのない信頼関係で結びついています。創業家だけが系列企業を取り残して、ひょいと新しい潮流に乗り換えることができないのも承知しています。

 しかし、ここで創業家ならではの事情だけで足踏みはできません。この先には徳川時代の火縄銃と同じ運命が待っています。でも日産、ホンダは自社の戦略に集中する姿勢を貫き、日本の自動車産業の変革について多く語りません。むしろ水素エンジンの実用化に業界挙げて歩調を合わせる風です。まるで徳川将軍の周りを囲む大名。令和の鎖国が始まっているかのようです。

 発展途上国の経済事情を考えればエンジンを搭載した自動車が無くなりはしませんが、日本の自動車産業がガラパゴス化するのも間違いありません。ちなみに過去、水素エンジンの実用化を唱え続けてきたのはローターリーエンジンの復活を悲願するとするマツダでした。今回、マツダが沈黙しているのが不思議です。

 創業家による経営は決断する力を発揮できる時代には強いのですが、過去の栄光と資産を捨てる時代に弱さが露呈します。このままでは日本の産業自体が息切れしてしまいます。100年に1度といわれる変革期を乗り越えることができるのでしょうか。

 徳川の時代が終焉して産業の維新が始まり、新しい日本の未来が見えてくるのかどうか。それとも気づいたら、手元に火縄銃と同じ運命を辿ったエンジンが残っているのでしょうか。

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