
SBIが フジと事業提携 北尾さんは自身の功績・哲学を評価するメディアが欲しかった
証券、銀行などを傘下に収める総合金融グループのSBIを率いる北尾吉孝さんは、欲しいものはかならず手中に収める稀代の経営者です。1995年にソフトバンクグループの株式公開を野村証券で担当した縁がきっかけに孫正義氏にスカウトされ、金融業界の常識を打ち壊しながらソフトバンク・インベストメント(SBI)を育て上げました。「両雄並び立たず」のことわざ通り、北尾さんはソフトバンクを離れ、今ではメガバンクと並ぶ巨大金融グループとして日本の金融業界をリード役を自任しています。
欲しいものを手中に収めたい
その北尾さんが今も手にしたいと願っていたのがマスメディアでした。「金融とメディア、ITの融合」を掲げ、新たな成長領域としてメディア事業にも進出、アニメ制作会社、芸能事務所、ネットサイトを運営するライブドアなどと提携していますが、SBIの事業規模を考えたら投資案件としてとても物足りない。喉から手が出るほど狙っていたのが国内外から注目を集める情報、コンテンツを発信するマスメディアでした。
なにしろ「金融とIT」はともかく「金融とメディア」はちょっと無理筋。野村証券、SBIで培った勝負勘、幅広い人脈を考えたら、不得意分野といってよいでしょう。失礼ながら、収益力を考えたら投資効率が悪い。わざわざメディア事業に手を延ばすよりも金融業で稼いだ方が賢明な選択です。
それでも、欲しかったのはなぜか。自身の功績を褒め称えてくれるメディアが欲しかったと推察します。笹川良一さんを思い出してください。戦前は右翼の政治家として名を馳せ、戦後は公営ギャンブルの競艇で莫大な資金を集め、日本船舶振興協会を巨大な慈善団体に仕立て上げます。「一日一善」をテレビCMで流し、おばあさんを背負う笹川良三さんの姿と重なってしまいます。
WSJとの合弁で痛感
「この人は、本当に自身の功績を認めてくれるマスメディアが欲しいのだ」。そう痛感したのが2009年、SBIが米ダウ・ジョーンズ社と合弁会社を設立し、 「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版」を発表した記者会見でした。
金融機関のSBIが世界経済に影響力を持つマスメディアと合弁することは一見、利益相反を招き、情報の中立性に疑義を与えます。SBI創業者、北尾吉孝さんは席上、時間をかけて説明します。ウォール・ストリート・ジャーナルを日本語で読んでもらえば、世界の潮流から取り残される日本の金融ビジネスの現状を理解できるはず。新しい挑戦を続ける金融機関に注目して欲しい。その言葉にはメガバンクなどが築き上げた岩盤のような金融業界に挑むSBI、すなわち北尾吉孝を知り、評価して欲しいという強い思いが込められていました。結局、ダウジョーンズとの合弁は3年後の2012年に解消します。
それから14年後の2026年6月、SBIはフジ・メディア・ホールディングスは事業提携します。すでにフジの株式7%を保有する大株主で、経営危機にある出資先へさらに踏み込んで事業提携を拡大するのは自然な流れ、驚きはありません。しかも、21年前の2005年にライブドアの堀江貴文氏がフジテレビの大株主だったニッポン放送の買収に挑んだ際、買収を阻止するホワイトナイトを演じたのもSBI会長兼社長の北尾さんでした。
事業提携の具体策としてドラマやアニメなどの映像コンテンツの共同制作、海外展開などが俎上に載っているほか、SBIがアニメや漫画など知的財産などに投資する1000億円規模のファンドにフジが参画するそうです。
「一日一善」が始まるかも
ただ、北尾さんの本音とは思えません。お金がもっと欲しいと考えているとは到底思えません。今、最も不足しているのは自身の功績に対する評価。北尾さんは人生哲学に関する数多くの著作を発表しており、「金の亡者」「強欲」と誤解されてたまるかと考えているはず。SBIの事業、北尾さんが蓄積した人生哲学、そして国内外に発信したいコンテンツがフジテレビを通じて発信される日が訪れるのです。「一日一善」。懐かしいこだまが蘇ってきそうです。

