
挑戦を忘れた日本車の未来 歴史的円安で1兆円稼いでも黄昏の太陽に
日本車メーカーが歴史的円安によって巨額利益を手にします。ドル円相場は日米の協調介入で一時153円台と円高となりましたが、結局は160円台の歴史的円安水準に戻っています。仮にこの水準が続けば、日本車7社は2027年3月期で9000億円を超える増益が上積みされるそうです。
ガソリン高騰でEVが復調
1兆円近い利益が自動車産業に天空から舞い落ちてくるのです。努力もせずにとはいいませんが、2期連続の赤字に苦しむ日産自動車や電気自動車(EV)戦略の撤回で上場来初の赤字に陥ったホンダにとっては、まさに天の恵みです。
もっとも、日本車を取り巻く経営環境をみると、ひと息つく余裕はありません。むしろ、厳しさが増しそうです。ここ数年、足踏みしていたEV需要は米国のイラン攻撃などによる中東情勢の緊迫を受けて再び成長基調に転じそうです。原油高騰が常態化すれば、ガソリン価格の上昇は収まらず世界のEV需要拡大はエンジン車と代替わりする本物の勢いを取り戻します。
しかも、すでに利益度外視するかのような割安な中国製EVが世界市場を席巻しています。欧米にも出遅れている日本のEVは、ますます世界のEV市場で取り残される恐れが強まっており、思わぬ巨額利益をどう投資するか今が勝負の時です。
日産やホンダなどに天の恵み
歴史的円安によって持たされる1兆円はどの程度の恩恵なのか。直近の決算を参考にみてみます。
日本車7社の2026年3月期の営業利益は4兆1484億円。単純計算で1兆円は4分の1を占めます。ただ、このうち3兆7662億円はトヨタが稼いでいますから、残る日本車6社の営業利益はわずか3822億円。2期連続の巨額赤字となった日産でさえ営業利益は580億円の黒字を確保しましたが、ホンダがEV戦略の転換で4143億円の赤字を計上しています。前期の窮状を直視すれば、今期の1兆円増はいかに大きな恩恵をもたらすかが直感でわかります。
個別でみても、同じです。歴史的円安がもたらす為替差益は通期でトヨタは4800億円、ホンダは1700億円と推測されています。日産は差益見通しを明らかにしてませんが、少なく見積もっても100億円単位になるはずです。
トヨタの4800億円を1兆円から差し引いても、5200億円の利益が残る日本車6車に行き渡るのです。経営規模、輸出採算などの違いで単純比較できないことは承知していますが、2027年以降も歴史的円安相場は続きそうですから、日本車の投資余力は一気に強化されると期待しても良いでしょう。
ところが、日本車の経営戦略ははたから見れば後退しているように映ります。高価格で充電などで使い勝手が悪いEVの欠点を追い風に、ハイブリッド車の評価が高まり、世界市場で好調に売れています。「EV不振を予測してハイブリッド車戦略を堅持したトヨタは賢明」という論調に象徴されるように、EV戦略を縮小したホンダはじめハイブリッド車で当面の収益を確保する経営に転じています。
「生きる金」にできるかどうか
企業経営は今日の1円を稼げなければ、10年後の100億円など夢のまた夢。わかります。でも、トヨタ、日産、ホンダはじめ日本車7車は世界の自動車メーカーの中でも群を抜く経営力を堅持しています。EVに限らず世界の自動車市場を再びリードする気構えを失っているなら、10年後の100億円も期待できないしょう。
日本車各社が運良く手にした1兆円をどう「生きる金」にするのか。来年以降の明暗を見極める経営判断に注目したい。このままでは日本車は黄昏で沈む太陽になってしまう危機感を覚えます。

